幸い,優秀な共同研究者や学生さんたちに恵まれたお かげで,幾つかのトップ国際会議に論文が採録され,こ れらの会議の査読や運営側の仕事をたまにお手伝いして います.しかし,筆者もこの分野の全容を理解している わけでなく,この原稿を書くには力不足ですので,その 辺を差し引いて残りの原稿をお読み下さい.また,筆者 の専門領域(ネットワーク計測・解析・セキュリティ) のバイアスが入っていることを御理解下さい. 原稿執筆にあたりネットワーク分野の大学院生が トップ国際会議に論文を出すことの意義を知り合いの研 究者たちと議論しました.その結果, 「海外の研究大学 の大学院生は,トップ国際会議に論文を出すことを目標 にしているけれど,日本では必ずしもそうでもないので は」という話になりました.米国では,大学院生がトッ プ国際会議で発表すれば,最初の職を得るにあたって大 き な メ リ ッ ト と な り ま す. 会 場 に は 企 業(Google, Microsoft, Facebook)や大学の有力研究者が参加して いますから,ここで目に留まれば,就職のチャンスが大 きくなります.セッションチェアが,登壇者を紹介する 際に「求職中である」と一言添えるシーンをたびたび目 にします.国内のネットワーク分野では,今のところ トップ国際会議論文がそのまま就職の有力な手段となっ ているかどうか分かりませんが,ほかの分野を見ると, トップ国際会議の論文採録経験を優遇するような求人が Twitter 等で話題になっています.ですから,国内の ネットワーク分野でも,研究職のグローバル化に伴い, 早晩,トップ国際会議への論文の採択が研究者のキャリ アアップに大きく影響するようになるのではないでしょ うか. (そうならないと優秀な研究者の確保が困難にな りそうです. ) 逆に論文の投稿を目指さない理由として,そもそも雲 の上の世界の話で自分には関係ないという意見や,ニッ チな研究トピックで,最初からそのような会議に論文を 出す意味を見いだせないという意見はあるでしょう.ま た,採択率 20%程度で論文が不採録になる可能性が高 いのであれば 3 年で学位が取れない,手厳しい査読コメ ントに精神的に耐えられないなどの意見もあるでしょう. 筆者自身がトップ国際会議に論文を投稿するのは, せっかく書いた論文を査読者以外にも読んでもらいたい という理由が大きいです.現状,山のように国際会議が 開催されています.検索技術の発展で,本当に良い論文 ならどのような会議や雑誌に掲載されたとしても読んで もらえるという意見は否定しませんが,筆者自身がタイ トル・アブストラクトに目を通しているネットワーク系 の 国 際 会 議 は,SIGCOMM, CoNEXT, IMC, NSDI, INFOCOM(関連分野のみ) ,HotNets で,後は専門分 野に特化した会議(PAM, TMA, etc)ですから,自分 ではそれ以上追い切れません. (もちろん論文執筆時に はほかにもいろいろ調べます. ) トップ国際会議の定義は人によって違うと思います. 2009 年と少し古いですが,あるブログのポストに著名 な 先 生 方 が コ メ ン ト を 残 し て い て 参 考 に な り ま す (http://mybiasedcoin.blogspot.jp/2009/10/ranking-networking-conferences.html) .大雑把にまとめると, トップ国際会議の基準として,シングルトラック,採択 率が低い,分野に偏りがない,発表関係者以外の聴衆が た く さ ん い る, な ど の 理 由 が 挙 げ ら れ て い ま す. INFOCOM もネットワークの理論寄りのトップ国際会 議ですが,マルチトラックで聴講が大変,採択数が多い と倍率が低くても玉石混交という意見はなるほどと思い ました.ただ,INFOCOM は最近ダブルブラインドの 査読や査読者の表彰など,査読の質の向上を図っていま す.またシステム寄りであれば NSDI, モバイルであれ ば Mobicom,計測であれば IMC と人によってトップ 国際会議の定義が違うのはそのとおりだと思います. 以下では,これらの中でこれまで筆者が多少なりとも 222 通信ソサイエティマガジン No.40 春号 2017 ⓒ電子情報通信学会 2017 解 説 トップ国際会議に論文を書こう ── ACM SIGCOMM, CoNEXT, IMC ── 福田健介 Kensuke Fukuda 国立情報学研究所/総合研究大学院大学
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福田健介. (2017). トップ国際会議に論文を書こう. 電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン, 10(4), 222–226. Retrieved from https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/10/4/10_222/_article/-char/ja/
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