要 旨 本稿の目的は,結婚や出産といったライフステージの変化が人々の幸福度や充実度に及ぼす影響について,日本 と米国のデータを使用したパネルデータ分析によって明らかにすることである.分析の結果,日本と米国のデータ で共通して,配偶者の存在は個人の幸福度や充実度に非常に大きな影響を与えており,かつそのような傾向は男女 の別にかかわらず観測されることが示される.また,日本と米国のデータで共通して,健康状態も人々の幸福度や 充実度に大きな影響を与えており,求職中の人や喫煙者は,幸福度や充実度が低いことも示される. しかし,子供の存在に関する推定では,日本の結果と米国の結果に大きな違いが生じている.日本人の場合,子 供がいないと幸福度や充実度が低いという結果が得られたが,米国の結果からは,必ずしもそのような事実は観測 されない.労働参加に関しても,日米で若干異なる結果が得られている. キーワード: 幸福の経済学,幸福度,ライフステージの変化 JEL Classification Number: I31 1.は じ め に 幸福度の経済分析は 1990 年代後半から本格的に始まり, 現在急速に研究の蓄積が進んでいる(Frey and Stutzer (2002) ) .本稿の目的は,結婚や出産といったライフス テージの変化が人々の幸福度に及ぼす影響について,日本 と米国のデータを使用したパネルデータ分析によって明ら かにすることである.日本の国勢調査によれば,1970 年 代後半から男女各年齢層で未婚率が急上昇し,2005 年に は,30 歳代前半の男性でも未婚率が 5 割に近づき,20 歳 代後半の女性の未婚率も約 6 割となっている.こうした 未婚率の上昇は少子化の一要因ともとらえられる. 本稿では,大阪大学が実施しているパネル調査のデータ を使用して, 人々の幸福度や充実度について分析している. 具体的には, 「あなたは普段どの程度幸福だと感じていま すか」という質問への回答を幸福度の指標とみなし,また, 「日頃の生活の中で充実感を感じている」という質問への 回答を充実度の指標とみなして,その決定要因を分析して いる. 分析結果は以下にまとめられる.幸福度を被説明変数と した分析から,配偶者のいる人,小さな子供がいる人の幸 福度が高いが,これらの説明変数が充実度へ与える影響は 観察されなかった.健康状態をあらわす変数や求職ダ ミー,後回しに関する変数は,幸福度,充実度に同じよう な影響を与えており,健康な人,求職中でない人,後回し 行動を取らない人のほうがより幸福度が高く,日々の生活 から充実感を得ていることが示される.労働参加している 人は幸福度こそ低いものの, 充実感は得ている傾向にある. 2.データ:「くらしの好みと満足度についてのアン ケート」調査 本稿の分析に用いるデータは,2004 年 2 月から大阪大 学 21 世紀 COE プログラムが実施している「くらしの好 みと満足度についてのアンケート」調査に対する回答であ る.この調査は,行動経済学的な分析を目的として行われ ており,日本における調査については,2004 年 2 月の調 査では 20 歳以上であった 6000 人の個人に対して行われ, 4224 人の回答を得ている.本稿の分析は 2005 年から 2010 年までのデータを用いている.この調査では,幸福 度について以下のような質問項目を設けている. 全体として,あなたは普段どの程度幸福だと感じていま すか. 「非常に幸福」を 10 点, 「非常に不幸」を 0 点とし て,あなたは何点ぐらいになると思いますか.当てはまる ものを 1 つ選び,番号に○をつけてください. 本稿ではこの質問への回答を個人の幸福度の指標とみな して分析を行う.また,充実度に関しては, 「日頃の生活で 充実感を感じている」という質問項目にぴったり当てはま る,と答えた個人に 1 を,全く当てはまらないと答えた個 人に 5 を付与した順序変数を使用して分析を行う. この幸福度の指標について,既婚者,未婚者ごとに日本 行動経済学 第 3 巻(2010) 183 ─ 186 第 4 回大会プロシーディングス 183 a 青山学院大学経営学部
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安紀子亀坂, 恵子吉田, & 文雄大竹. (2010). ライフステージの変化と男女の幸福度. In 行動経済学 第4回プロシーディングス (pp. 183–186).
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