Key Words:repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS), theta burst stimulation (TBS), plasticity, unilateral spatial neglect, non-fluent aphasia (神経治療33:228-233,2016) はじめに:反復経頭蓋磁気刺激療法について 経 頭 蓋 磁 気 刺 激 (transcranial magnetic stimulation: TMS)は 1985 年英国の Barker らによって開発された非侵 襲的脳刺激法の一つであるが,頭蓋表面に置いた磁気コイル にパルス電流を流し電磁場を生じさせ,脳実質に渦電流を起 こして神経組織を刺激するものである 1) .反復経頭蓋磁気刺 激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS) は,TMS を連続的に与えるもので,刺激直下の脳機能を促 通あるいは抑制することができる.通常,低頻度刺激(1Hz 以下)は抑制性に,高頻度刺激(5Hz 以上)は促通性に作用 する.また,rTMS は刺激部位と線維連絡を介して遠隔の脳 部位にも作用する.このような作用を利用して,脳研究や 様々な脳障害の治療に応用されている.rTMS の効果は刺激 時間を超えて続くが(after-effect) ,この効果は rTMS を治 療に利用する基礎になる.まだ詳細な機序は完全には解明さ れていないが,現在のところシナプスの可塑性(synaptic plasticity)が考えられている.rTMS により NMDA 受容体 の構造的変化や脳由来神経栄養因子(brain-derived nutritional factor:BDNF) ,神経伝達物質などの濃度や放出など の機能的変化が生じてシナプス効率が変化して,抑制性の長 期抑圧(long-term depression:LTD)や促通性の長期増強 (long-term potentiation:LTP)が誘導される 2) .rTMS は, 現在まで脳卒中後の片麻痺,Parkinson 病,書痙などのジス トニア,うつ病,失語症や半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN) ,疼痛など様々の疾患や病態に臨床応用が試 みられており,その有効性が報告されている. rTMS の効果には,刺激頻度,刺激の強度,刺激時間や総 刺激数などが影響するが,最近では刺激パターンが注目さ れ,様々な工夫が行われている.従来の TMS を規則的に与 える conventional rTMS(c-rTMS)に対して,刺激パター ンを様々に変化させ行なう rTMS は patterned rTMS(p-rTMS)と呼ばれ,最近ではp-rTMSの利用が増加している. 一般に p-rTMS は c-rTMS よりも刺激効果が強く,効果の持 続時間も長いと考えられている.p-rTMS は,シーターバー スト刺激(theta burst stimulation:TBS) 3) ,quadripulse stimulation(QPS)などいくつかの方法が開発されている が,我々はこのうちの TBS を用いて行っている.TBS は, 50Hz,3発の高頻度rTMSを5Hz,2秒間行い(TBS) ,この TBS を間隔を開けずに 20 回連続して行う連続性 TBS(con-tinuous TBS:cTBS)と,8 秒間の間隔を開けて 20 回繰り 返 す 間 歇 性 TBS (intermittent TBS: iTBS) に 分 け ら れ (どちらも 1 セッッションが計 600 発刺激) ,cTBS は刺激直 下の脳組織に抑制性に作用し,iTBS は促通性に作用すると されている 3) .この作用を利用して,TBS も様々な神経障害 に対して応用が試みられてきている.まだ新しい刺激法であ り,その臨床応用の報告は多くはないが,USN 4~7) や失語 症 8, 9) , 上 肢 麻 痺 な どについ て有 効 性 が 報 告 され ている. 我々も,randamized controlled trial(RCT)ではないが, 脳卒中後の非流暢性失語症 10) や上肢運動失調 11) に対して行 ない,有効性を認めている. TBS の効果と刺激量の関係は治療を行う上で重要である が,他の rTMS と同様に Bienenstock-Cooper-Munro 理論 12) に従い,刺激量が増加するとシナプスでの過度の増強を抑え るために抑制性の介在ニューロンが働いて,シナプスにLTD 作用が誘導されて刺激閾値が増加し,過度のLTP作用が抑制 される(homeostatic metaplasticity:メタ可塑性) 13) .この
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雄吉井上. (2016). 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法. 神経治療学, 33(2), 228–233.
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