本邦において、注射用β―ラクタム系薬およびニューキノロン系薬および一部のペプチド系薬では、添付文書中に“事前に皮膚反応を実施することが望ましい”あるいは“事前に皮内反応を実施すること”と記載されており、皮膚反応試験の実施が推奨されている。しかしながら、抗菌薬投与患者に皮膚反応検査を実施する意義については十分な検証がなされていない。 本特別部会において検討を重ねた結果、抗菌薬の静脈内投与時におけるアナフィラキシーショックの予知目的に行われる皮内反応試験実施の有用性に関するエビデンスは存在しなかった。また、皮内反応が通常行われていない米国におけるβ―ラクタム系薬のアナフィラキシー発生と皮内反応を行っているわが国における発生の市販後調査比較では、むしろ米国の頻度が低い傾向にあるという事実やわが国で皮内反応が必要とされていないバンコマイシンによるアナフィラキシーショックの頻度はβ―ラクタム系薬における頻度と大きな差異が見られないなど、皮内反応がアナフィラキシーショックを予知しているとはいい難い事実が明らかになった。さらに、皮内反応検査を実施している臨床の現場では、皮内反応陽性例が真のアレルギー陽性例に比較して圧倒的に多いことが経験されており、治療に必要な抗菌薬の投与が中止されることによる患者の不利益の方がむしろ重大であると認識している臨床医が多かった。 以上のような検討事項と臨床現場における医師の意識調査を勘案して、現在の抗菌薬皮内反応試験について、本部会は以下のような提言を行いたい。現在、アナフィラキシーの予知に用いられている注射用のペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系、キノロン系およびペプチド系抗菌薬の皮内反応は可及的速やかに中止されることを提言する。 ただし、きわめて低頻度であるがアナフィラキシーショックが発現するので、事前に抗菌薬によるショックを含むアレルギー歴の問診を必ず行い、静脈内投与開始20~30分間における患者の観察とショック発現に対する対処の備えをしておくことが必要である。
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齋藤厚, 砂川慶介, 炭山嘉伸, 中島光好, 池澤善郎, 比嘉太, … 矢野裕二. (2003). 社団法人日本化学療法学会臨床試験委員会皮内反応検討特別部会報告書. 日本化学療法学会雑誌 , 51, 497–506.
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