本研究では,約3年に及ぶ縦断的インタビューで得られた性同一性障害者1名の語りから,当事者であったAが医療における「成功物語」から離脱し,自らを「性同一性障害者」と語らなくなっていく変容プロセスを質的に検討した。分析の視点は,(1)治療へのモチベーション及び身体の捉え方の変化,(2)Aを取り巻く社会的関係の変化,(3)病いの意味づけの変化であった。結果では,それぞれ(1)身体違和感及び治療へのモチベーションの相対的低下,(2)Aを取り巻く社会的関係の拡大及び私的関係における摩擦と他者との折り合い,(3)他者との関係性の中で生きることの重視が明らかになった。考察では,Aが「GID当事者である」と語らなくなっていた過程を,「成功物語」と「私物語」の間に齟齬が生じる過程として捉え返し,それを悪魔物語の解体と物語の再組織化過程という観点から述べた。
CITATION STYLE
「私は性同一性障害者である」という自己物語の再組織化過程. (2008). The Proceedings of the Annual Convention of the Japanese Psychological Association, 72(0), 1EV014-1EV014. https://doi.org/10.4992/pacjpa.72.0_1ev014
Mendeley helps you to discover research relevant for your work.