科学 者 に とって科学哲 学の効用 は何 よ りもまず 「武器」 として使 える ことで ある.当 面の 問題 解決の ための,個 別科学 の基盤 を問い直す ため の,あ るいは論敵 を打破す るための 「武器」 として使 えない科学哲学(者) は科 学者 に とって まった く存在価値 を もた ない.本 稿 では,生 物体系 学 (biological systematics)す なわち生物 多様性 を研究対象 とす る生物 学に おける過去半世紀 にわた る現代史 を振 り返 ることによ り,生 物学者がいか に して科学哲学(者)を うまく動員す ることにより,数 々の体系学論争 を 闘い抜 いて きたか を考察 したい. 科学者 は自 らが専門 とす る個別科学 の領域 に属 し,好 奇心 と解 くべ き問 題 を前 に して研究活動 を続 けている.し かも,科 学者 は積極 的に同業者か らな るコ ミュニテ ィをつ くり,学 会 のよ うな形式的団体 か ら私的 なサ ーク ルにいたるまで,さ まざまなかたちの相互 関係 を結んでいる.科 学者の問 の人間関係 は研究上の協力にいた ることもあれ ば,逆 に厳 しい論争 が避 け られないこともある.科 学論争 は,デ ー タや方法論に関わることもあれば, あるいは もっ と理論的・ 概念 的に掘 り下 げて進行す ることもある.い ずれ にせ よ,大 部分の 自然科学での論争 はそこまでで決着がつ くはず だ. しか し,生 物体 系学の世界で は科 学哲学の レベルでの論争 が繰 り返 し 生 じて きた とい う他の 自然科学 の領域 では あま り見 られない特徴 が あっ た.本 稿 の 目的は,そ の様相 と背景 について考察す ることに ある.
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信宏三中. (2007). 科学哲学は役に立ったか:現代生物体系学における科学と科学哲学の相利共生. 科学哲学, 40(1), 43–54.
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