Abstract
1 .はじめに 固体表面に付着した液滴,粘液,固形物,生物等は,基材 の意匠性や視認性の低下,歩留まりの悪化,摩擦・流体抵抗 の増加,腐食や微生物繁殖の起点となり,多くの問題が生じ る。例えば,タッチパネルデバイスに付着した指紋,皮脂, 化粧品等は,視認性の低下を招くため,これらの付着抑制に 優れたコーティング剤の開発が盛んに行われている。また, アメリカの研究グループの試算 によると,包装容器等に付 着した残留物の重量は数 % から 25% 程度あり,大きな経済 損失をもたらしている。さらに,航空機に付着した雪氷は重 大事故を誘引することから,大量の防除雪氷液の散布が必須 となり,運航コストの増加や環境汚染が懸念されている 。 このように,省資源・省エネルギー,安全・安心の観点からも, 撥液・難付着性に優れた機能表面の開発が求められている。 このような撥液・難付着性に関する研究開発は,古くは単 分子膜に関する研究に遡り,最近では生物体表の特異的な微 細構造を模倣した研究に注目が集まっている。例えば,固体 表面にハスの葉表面のような微細構造を付与し,液滴の静的 接触角 (θ S ) を大きく (> 150° ) することにより,液滴をコロ コロと滑落させることを可能にする超撥液表面に関する研究 が盛んである 。しかしながら,これらの人工的な撥液表面 は,機械的・化学的な損傷により表面機能が半永久的に失わ れてしまい,耐久性・持続性が乏しい。2011 年頃より,生 物体表の特異的な微細構造のみならず,動的挙動を模倣し, 耐久性・持続性に優れた撥液・難付着性表面に関する研究が 報告されている。例えば,米国,Harvard 大学の研究グルー プは,ウツボカズラの捕虫機構を模倣することで,Slippery Liquid Infused Porous Surface(SLIPS TM ) と呼ばれる凹凸構造が 潤滑液で湿潤された機能表面を開発した 。これまでにない 革新的な概念に基づき開発された SLIPS TM は,優れた撥液性 のみならず,耐久性,持続性,自己修復性を示すため,これ まで困難とされてきた粘性物質,エマルション,氷雪の付着 抑制への応用が期待されている。 本稿では,固体表面に付着した物質 (液体,固体) の易除去 性を撥液・難付着性と定義し (θ S 値の大小は問わない) ,こ れまでに報告されている国内外の撥液・難付着性表面の特長 と最近の研究開発動向を概説するとともに,我々が開発した ナメクジの表面清浄機能に着想を得た新規撥液材料である自 己潤滑性ゲル (SLUG:Self-Lubricating Gel) について紹介する。 2 .撥液・難付着性表面の分類 最近報告された撥液・難付着性表面に関する総説において, Wong らは固体表面と付着液 (物) との関係を図 1 のようにま とめている 。撥液・難付着性を示す固体表面は (1) 平滑表 面 (図 1a) , (2) 凹凸表面 (図 1c) , (3) 潤滑表面 (図 1d) に大別 することができる。本稿では,これらの表面状態が報告され た 時 間 的 経 緯 を 考 慮 し, そ れ ぞ れ の 表 面 を, 第 1 世 代 (図 1a) ,第 2 世代 (図 1c) ,第 3 世代 (図 1d) の撥液・難付着 性表面と呼ぶことにする。現在,研究開発の主流となってい ナメクジの分泌機能を模倣した撥液材料(SLUG)の開発 浦田 千尋 a ,佐藤 知哉 a ,穂積 篤 a a
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URATA, C., SATO, T., & HOZUMI, A. (2017). Liquid Repellantcoatings Inspired by the Secretion Function of Slug’s Skin. Journal of The Surface Finishing Society of Japan, 68(3), 132–137. https://doi.org/10.4139/sfj.68.132
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