1.冠詞の有無で大違い 科学英語,殊に英語に関する上達 how to 本は星の数 ほどあるが,参考書や教科書では伝えきれない,英語と いう言語の持つ独特の構造・感覚(native English speakers が無意識に使い分ける)について,実際の校閲・翻 訳で得た実例からご紹介できれば幸いである。まずは冠 詞の話から。 いちいち「a」とか「the」とかを名詞につける習慣の ない日本人にとってかくも悩ましく,とらえどころのな いものはない(論文校閲では,the の多すぎ,または the の完全無視の例をよく見る) 。だが,冠詞はあなどれな い。冠詞の有無でどれだけ意味が変わるか,私が肝に銘 じた一文を紹介したい。 We changed temperature and observed a magnetic phase transition. (温度を変え,磁気相転移を観測した) 問題は temperature の冠詞である。無冠詞となってい るがこのままで良いのか,それとも冠詞が必要か。ちな みに temperature は,時に可算にも不可算にもなる名詞 である。 正解は「具体的に数字で表現できる,限定されている 試料の温度」を意味する temperature(可算)となるの で,定冠詞 the が必要となる。ではこのまま無冠詞だ と,どんな意味になるのだろうか? 下記の二つの例文(どちらも「私達は温度を変えた」 ) は文法的に正しいのであるが,実は意味が全く異なる。-みなさまちょっとご想像ください! a)We changed temperature. b)We changed the temperature. 答えは,a)の無冠詞だと,私達が「自分」の温度を 変えた,という意味になる。 (具体例を無理矢理想像すると,体温を上げて発熱し, ウィルスの増殖を抑えた,というところだろうか?) temperature 以外にも,we changed color(無冠詞・不 可算)も同様に「自分」の色(髪・目・顔色など)を変 える,の意味となる(Fig. 1) 。 たとえば,成長するにつれ,目(光彩)の色が変わる 現象が起こり得るとのことだが(誕生時は青色→幼少時 は薄茶色→老年期に明緑色に変化するという具合)それ には遺伝的要素が関与しているという説で,二組の双子 (一卵性と二卵性)の例を挙げ説明した文章には Both sets of twins showed a darkening with age of both the hair and eye color. The identical twins changed color together, at essentially the same rate. The non-identical twins changed color but at different rates, which indicates a strong genetic influence in the timing of these color changes. (一卵性双生児はほぼ同時期に髪と目の色が変わったが, 二卵性双生児での変化のタイミングはバラバラであっ た。このことは,遺伝子が変色の時期に強く関与してい ることを示唆している) とある。 見てきたとおり, 「the」の一文字の有無で,change の 目的語が「自分自身」のものか, 「他」のものとなるか が変わってしまうのである。 (まあ,論文では,文脈から意味を取り違える心配はほ とんどないと思うが) また,マーク・ピーターセン氏が著書の中で a)I ate chicken. b)I ate a chicken. a)の無冠詞だと, 「鶏肉(不可算名詞) 」を食べた,と
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YAMASHITA, R. (2013). Tips on English Grammar for Scientists (Articles). Hyomen Kagaku, 34(1), 46–49. https://doi.org/10.1380/jsssj.34.46
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