次に,人々の行動に影響を与えるための政策介入の倫理的問題について議論する.ナッジとしてよく知られている方法の一つに,デフォルト設定の変更がある.これは,多くの人々の選択を変える可能性があることが指摘されている.ここで,デフォルト設定に影響された場合の選択と人々が入念に考えた場合の選択の間に大きな差がないのであれば,倫理的な問題は大きくないと考えて良いだろう.しかし,熟考した場合の選択がデフォルト設定に影響されたものと全く異なるなら問題が生じる.例えば,患者に病気と治療法に関する情報を与えられ,十分な説明を受けて,しっかりとした理解のもとで選択する治療法と,医療者がデフォルトとして提案する治療法が異なるなら,そのような提案による行動変容は倫理的な観点から避けられる べきである.時間的余裕がなく,不安を感じている中で,よく理解できずに意思決定をしなければならない状況に患者がある場合とそうでない場合で患者の意思決定が異なるときに,合理的な判断により近い治療法の方をデフォルト に設定して提案することが重要である,と考えられる.
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佐々木周作, & 大竹文雄. (2018). 医療現場の行動経済学:意思決定のバイアスとナッジ. 行動経済学, 11, 110–120.
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