[Open Access and free access services offered by publishers in emergent situations] 非常時における出版社によるコンテンツの無償公開とオープンアクセス

Abstract

[Abstract Open Access is one of the ways to keep access to scientific information even in emergent situations. In this paper, firstly we introduced free access services offered by commercial publishers. The services may accelerate scientific research as same as Open Access articles, however, regal use and economic continuity are its issues. Next, we pointed out how progress of Open Access movement has affected on and will change scientific research activity or library services. At the last, we considered what stakeholders should do in the era when Open Access is a new normal.] 出版社による無償公開 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は，国内観測 史上最大，世界でも 1900 年以降 4 番目の規模という巨大 な災害であり，国内外の多くの出版社・学会等が支援を表 明した。例えば国内では，医学書院社が発行雑誌の中から 震災関連の記事を公開 1) し，日本書籍出版協会は，被災 地で役立つコンテンツの無償提供を会員出版社へ呼び掛け た 2) 。また，大手学術出版社である Wiley Blackwell は， 津波，地震，放射線や外傷性ストレス障害に関する文献を 公開 3) し，Wolters Kluwer 社は，被災地域の病院・医療 機関に向けて，同社のデータベース，電子ジャーナル，電 子ブック等を Wolters Kluwer 緊急医療情報源ポータルに 災害時にも情報へのアクセスを守る手段の 1 つとして，学術情報のオープンアクセス化が考えられる。本稿では，まず出版社による災 害時のオンラインコンテンツ無償公開を切り口として，学術研究の加速と成果の活用というコンテンツ公開の効果と，法的に適正な利用 と経済的持続性という課題について指摘する。次に，オープンアクセスの進展が，研究者による学術研究と成果発信を取り巻く環境をど のように変化させ，図書館等が行う情報の収集・保存・提供の在り方に影響を及ぼすかについて述べ，オープンであることが 1 つのスタ ンダードとなりつつある中で，学術情報流通に関わる者が今後取り組むべきことを考察する。 キーワード：オープンアクセス，学術情報流通，学術雑誌，オープンサイエンス，学術出版社 て公開 4) した。これらは主に，災害発生に伴う課題を解 決しようとするプロフェッショナルに向けた専門情報であ る。 また，目下世界に多大な影響を与えている新型コロナウ イルスによる感染症（COVID-19）に対しても，多くの出 版社等が行動を起こしている。Elsevier 社は 2020 年 1 月 27 日 に Novel Coronavirus Information Center を 開 設 し，関連論文や解説記事を集約した臨床医向けページ，患 者向けページを公開 5) した。また，Cambridge University Press 社は，同社が発行する電子書籍 1,700 タイトル以上 を高等教育機関向けに無償提供 6) するなど，休校を余儀 なくされた教育機関や学習者への支援の動きもみられる。 あるいは，出版社と関係機関の間で，あらかじめ非常時 における対応ネットワークが構築されている例もある。米 国 出 版 社 協 会（Association of American Publishers: AAP） の Professional/Scholarly Publishing Division と 米 国 国 立 医 学 図 書 館（National Library of Medicine: NLM） ， 医 学 図 書 館 全 米 ネ ッ ト ワ ー ク（National Network of Libraries of Medicine）等の間では，緊急支 援イニシアティブ（Emergency Access Initiative: EAI） 7) が結ばれている。EAI では，災害時に市民，図書館や医 療系プロフェッショナルを支援するために，生物医学分野 の書籍やジャーナル，データベースなどを対象地域内で一 時的にフリーアクセスとして提供することを取り決めてお り，東日本大震災時のほか，パキスタンでの洪水，ネパー ルでの地震，西アフリカでのエボラ出血熱流行時など，今 までに 8 回の支援が行われている。 2.2 関連する取組 出版社による無償公開に対し，図書館や行政，資金提供 者といった関係者は，利用側の要望を代弁するとともに， 提供された情報をとりまとめて発信する役割を担ってき た。 東日本大震災の際には，日本図書館協会から公衆送信権 の特例措置に係る協力依頼 8) が発信されたほか，出版社 ＊やまがた ともみ 北海道大学附属図書館 〒060-0808 北海道札幌市北区北 8 条西 5 丁目