1 .はじめに 21 世紀の現在,我が国をはじめ近代国家では超高齢化社 会を迎え,必然的に置換医療は増加傾向にある。この高度医 療技術を支えるために,医療現場では安価で安全性の高い医 療のための革新的先端材料の開発が強く求められている。現 在,使用されている先端医療デバイスは Ti 合金,Co-Cr-Mo 合金,CoCr 合金,ステンレス鋼等の金属系材質やセラミッ クス等の各種素材を組み合わせることで ,基材に必要な形 状や力学的性質を付与しているが,生体にとって異物である 医療デバイスによって生体組織に異常が生じ,機能不全にな るという問題が生じる場合がある。このため,医療デバイス に用いる医療用材料への血液適合性や組織適合性の付与が大 きく注目され,安全性と医療経済性を兼ね備えた表面処理技 術の開発が活発化している。 プラズマ CVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition) 法 な ど に よ り 成 膜 さ れ る 炭 素 の sp や sp 結 合 か ら な る Diamond-Like Carbon(DLC) は,非常に平滑で不活性な表面 であるため,近年では生体物質との相互作用を嫌う医療用材料 表面の生体適合化処理方法の一つとして期待されている , 。 DLC 膜は主要組成分が主に炭素と水素で構成されるため生 体組織から異物として認識されにくく,血液適合性や組織適 合性が高い生体材料といえる。加えて,DLC 膜はダイヤモ ンド構造とグラファイト構造の両者を併せ持つアモルファス 炭素質薄膜であることから,高いバリア性能を呈し,基材か らの金属イオン溶出の抑制や耐食性の向上が期待できる。本 稿では,生体適合性と耐久性の両特性を併せ持つ DLC コー ティングの医療機器への応用について,冠動脈ステントと歯 科インプラントを例にとり,医学・工学融合領域における最 先端の実用化技術について概説する。 2 .冠動脈ステントへの DLC の適用 冠動脈ステント治療の概略を図 1 に示す。ステントは,心 筋梗塞などの虚血性心疾患の患者に対し,その原因である心 臓の血管が狭くなった部位を物理的に広げ,血流を取り戻す ことを目的とした,SUS316L や CoCr 合金製の網目構造をし たチューブ状の医療機器である。ステント治療は,人体への 肉体的侵襲が大きい心臓バイパス手術が回避でき,患者の QOL(Quality Of Life) および医療経済性に優れた低侵襲医療 技術として,近年不可欠な技術の一つとなっている。しかし, 大半の医療材料は生体にとって異物であり,血小板の付着や 血液凝固など生体適合性の点で問題が生じる。現在市販され ているステントは普及がめざましいものの,生体適合化が満 足できずデザインの改良や材料の表面機能化の見直しが急務 となっている。このような背景から,生体適合性と耐久性の 両特性を併せ持つ純国産の新しいコンセプトの冠動脈 DLC ステントの事業化を目指してきた。 2.1 医療用フレキシブル DLC コーティング技術 ステントは塑性変形域まで拡張させる事で血管を保持する が,表面に形成した DLC は基材変形に対して追従しなけれ ばならず,高い靭性を持った強固な被覆が要求される。そこ で,DLC をステントに適応させるために,基材変形に対し て破壊されない Si 濃度傾斜型の高靭性 DLC を提案し開発を 試みた。図 2 にステント用の高靭性 DLC の模式図を示す。 DLC 膜は炭化水素ガスを主成分としたプラズマ CVD 法によ り成膜した。検証のため,基材側にヤング率が小さい DLC を形成させた Si 濃度傾斜膜と,その比較対象としてヤング 率が大きい DLC を形成させた単独膜をそれぞれ Co-Cr 合金 生体適合 DLC コーティングの医療機器への応用 中 谷 達 行 a a 岡山理科大学 技術科学研究所 (〒 700-0005 岡山県岡山市北区理大町 1-1)
CITATION STYLE
NAKATANI, T. (2016). Application of Bio-compatible DLC Coatings to Medical Devices. Journal of the Surface Finishing Society of Japan, 67(6), 279–283. https://doi.org/10.4139/sfj.67.279
Mendeley helps you to discover research relevant for your work.