ジェントリフィケーションは、1980年代に比べると現象が大きく変質してきた。ジェントリフィケーションは、もはや住宅市場の狭い非現実的な特異さに関するものではなく、よりもっと大きなものを得ようとする居住の最先端、すなわち、中心部の都市景観に関する階級の再建となっている。 現象の変化として近年注目されている研究テーマは、新築のジェントリフィケーション(new-build gentrification)である。新築のジェントリフィケーションは、工場跡地や放棄された土地、建物が取り壊されたところに新たに建設されたものである。新築のジェントリフィケーションとは、再投資と高所得者による地域の社会的上向化、景観の変化、低所得の周辺住民の直接的・間接的な立ち退きを伴うものである。本報告では、このような現象が東京特別区部において発現しているのか考察する。 21世紀に入りジェントリフィケーションの多発する要因のひとつに、政府の積極的な支援がある。ニューヨーク市の事例では、工業地域から住宅建設を可能にする用途地域への変更により、大規模なコンドミニアムの建設が可能となった。本報告ではまた、住宅に関する施策の変化が、ジェントリフィケーションの発現に影響するのか検討する。 1990年代のジェントリフィケーションの発現は、京都市の事例では都心周辺地区にみられた。ニューヨーク市の事例では、イーストリバーを挟んだ都心の対岸地区でジェントリフィケーションがみられた。本報告では、2000年代の発現地区と都心との位置関係について検討する。 ジェントリフィケーションの発現を示す指標として、2000年代前半の専門的技術的・管理的職業従事者の動向について検討した。中央区の増加率は30%を超えて最も高く、江東区と千代田区の増加率は10%を超えた。地区で起こるジェントリフィケーションの特性を考えると、区の範囲でジェントリフィケーションが起こっているか判断することは困難なので、本報告では専門的技術的・管理的職業従事者が最も増加した中央区を事例として詳細に検討する。 中央区の住宅関連施策の実施に関しては、1980年代の投機的土地売買による居住人口の減少が背景にある。中央区は居住人口を確保するために、1985年に中央区市街地開発指導要綱を制定し、大規模な開発には住宅附置を義務づけた。住宅の確保に効果はあったが、新築された共同住宅の家賃が高く、従前の借家人は入居できず立ち退きとなる問題があった。住宅附置義務により増加した共同住宅の多くは、単身者用であった。住宅附置義務制度は、規制緩和された建物の高さに関する建築紛争の多発により2003年に廃止されたが、ジェントリフィケーションの発現に影響を及ぼしたのである。 ジェントリフィケーションの発現地区については、町丁別に専門的技術的・管理的職業従事者の変化を検討する。首都高速道路の都心環状線と上野線の西側が都心の業務地区であるが、専門的技術的・管理的職業従事者は、都心周辺地区で増加するとともに、隅田川の東岸の地区においても増加した。日本橋の問屋街や築地市場では卸売業が集積し、入船から湊にかけての地区では印刷工場や倉庫などがみられる。都心の業務機能はこれらの地域には拡大せず、再投資による共同住宅の建設があり、社会的上向化が起こった。新築のジェントリフィケーションに関連する景観の変化と立ち退きについては、地区ごとに詳しく検討する。 東日本橋から人形町にかけての地区では、繊維・衣服等卸売業が集積しており、近年ではそれらの店舗の跡地に共同住宅が多数建設されている。1階に店舗を設置しない共同住宅の建設計画には、問屋街の連続性が失われるとした建築紛争があった。 入船から湊にかけての地区では、1980年代の地価高騰期の投機的土地売買のために、住民は立ち退きとなり、住宅や工場、倉庫の建物は取り壊された。1990年代には、景気後退の影響からそれらの跡地は利用されず放置された。2002年には都市再生特別措置法が施行され、都市再生特別地区として超高層共同住宅の建設計画がある。 隅田川より東の佃や月島、勝どきでは、大規模な高層共同住宅開発が進められた。佃では、造船所と倉庫などの跡地に、1980年代半ばより超高層共同住宅が建設され、景観は大きく変化した。佃や月島は、路地空間に特徴のある下町である。近隣への中高層共同住宅の建設に際しては、既存の高層住宅の住民から反対されるなど、新たな建築紛争が起こっている。
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藤塚吉浩. (2011). 東京都中央区における新築のジェントリフィケーション. 人文地理学会大会 研究発表要旨, 2011, 6–6. Retrieved from http://ci.nii.ac.jp/naid/130005021091/
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