キーワード トマト,単為結果,植物ホルモン,MADS-box 遺伝子 はじめに トマトの収量は,雌蕊が果実へ分化する着果の効率に 依拠するが,着果の作用機序は明らかにされていない部 分が多い.一方,受粉をしなくても着果する「単為結果」 は,トマト栽培に欠かせない着果誘導作業の省労力に寄 与するため,当該形質の栽培品種への導入が生産現場か ら期待されている.本総説では,トマトに単為結果を誘 導する因子の紹介とその作用機序について概説する.ま た,今後求められる単為結果トマトの育種研究について 考察した. 1.ナス科モデル作物としてのトマトの研究利用 ナス科は,ナス(Solanum melongena) ,トマト(Solanum lycopersicum) ,ピーマン(Capsicum annuum)など世界で 幅広く生産される作物を含んでいる.イネやシロイヌナ ズナとは異なり果実を可食部とするナス科作物の育種に おいては,ナス科独自の遺伝学的および分子生物学的研 究が重要である.トマトはナス科において,果実発達研 究のモデル作物として活用される植物であり,全ゲノム DNA 配列の解読(The Tomato Genome Consortium 2012) , 高効率の形質転換系の確立(Sun et al. 2006) ,変異体や T-DNA タギングラインの整備 (Meissner et al. 1997, Menda et al. 2004, Saito et al. 2011 ) , DNA マーカーの整備 (Shirasawa et al. 2010a, 2010b)並びに完全長 cDNA の収 集など大規模なバイオリソースの整備(Aoki et al. 2010) 編集委員:加藤鎌司 2017 年 4 月 15 日受領 2017 年 7 月 26 日受理 Correspondence: ariizumi.toru.ge@u.tsukuba.ac.jp が世界各国で実施されている.これらのゲノム情報や変 異体の活用により,機能ゲノミクス研究をはじめとする 基礎研究のみならず,収量の増加と生産の安定化を目指 す開発研究への展開も期待できる. 2.トマトの着果 トマトの花序分裂器官が花器官形成を経て果実へと遷 移する過程は 3 つの段階に区分される(Gillaspy et al. 1993) .第 1 段階は,初期の花序分裂器官から花器官が分 化し,雌蕊が受粉する以前の時期を言う.第 2 段階は, 受粉や受精を経て子房内で細胞分裂が盛んになる時期 (一般的に開花日から開花後 7~10 日までの間)を指す. 第 3 段階は,細胞分裂よりも細胞肥大が優勢となり,最 終的な果実径まで成長する段階である.第 3 段階の後, 果実は着色し熟する.一般的に着果とは子房が果実へ遷 移する時期全般を指す.本論文においては,子房の細胞 分裂および細胞肥大が活性化される第 2 段階から第 3 段 階までを着果の定義とする. 通常,着果は受粉や受精が阻害される環境下において その効率が低下する.着果を阻害する環境因子には,温 度,湿度,土壌中窒素量が挙げられる.例えば高低温環 境下では,葯の開裂阻害による花粉放出量の低下,花粉 稔性の低下,あるいは花粉管の伸長阻害が生じる.また, 高湿度下では花粉の粘着性が高まり葯からの放出が阻害 される一方,低湿度下では花粉の粘着性が低下して柱頭 への付着(受粉)が阻害される.さらに,土壌中窒素量も 重要な因子であり,窒素量が過多では栄養成長が優先さ れ,過少では栄養不足により着果が抑制される(Dinar and
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Takei, H., Ezura, K., Ezura, H., & Ariizumi, T. (2017). Current understanding of mechanism for parthenocarpy contributed to stable tomato production. Breeding Research, 19(4), 137–144. https://doi.org/10.1270/jsbbr.19.137
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