これまでの記事 1) ,2) でヘルマン・モーガン記号 (国際記 号)から対称性の導き方と空間群の分類を説明した.今 回はミラー指数,ラウエ指数の定義および実験で得られ る消滅則の厳密な関係を紹介する.日常的に使われる概 念であるにもかかわらず意外と誤解が多いと感じている. 消滅則を理解するために回折という現象と構造因子と いう概念が必要だが,この学会誌の読者の中では既知と 考えここでは省略する.なお,復習の必要な読者は本誌 特集号 「X 線構造解析を始めよう」 ,あるいは 「単結晶回 折 X 線実験かんどころ」を参考にしていただきたい. 3) 1.ワイスパラメーターからミラー指数への旅 鏡映面の方向はその法線ベクトルで指定する.なぜな らば,無限の面が 1 本のベクトルを共有するがそのベクト ルに垂直な面は 1 枚しかない (図 1) .しかし,鏡映面でな い普通の格子面の法線ベクトルは格子ベクトルと限らな い.例えば,単斜格子の場合は 1 本の対称方向しか存在 しない.その対称方向を基底軸の 1 つとして選ぶと 3 つ の設定が得られる:a-unique ,b-unique,c-unique .歴史 的な理由で b-unique はより頻繁に選択される.b-unique を選択する場合,ac ベクトルを含む格子面の法線ベクト ルは基底の b 軸と一致し, [010]という指数をもつ.が, bc ベクトルを含む格子面の法線ベクトルは普通格子点 を通らないため整数指数をもたない. どの格子面でもその方向を指定するために逆格子のベ クトルを利用することができる.しかし,格子の幾何的 要素を指定するためにその双対格子 (ここでは逆格子) の 幾何的要素を利用するのは不自然に思われる.そして, 双対格子の概念はブラベー時代に導入されたものである ことを考えると, 4) それ以前は結晶面を実空間の格子で 表現できる手段が必要であったはずである.文化 14 年 (1817 年)にクリスチャン・サムエル・ワイスが導入し た結晶面のパラメーター (今日ワイスパラメーターと呼 ばれる) は,その歴史を示している. 5) 格子定数を a ,b,c で表示すると,結晶面の軸との切片がそれぞれ pa,qb , rc の場合にそのパラメーターは p,q,r である.ワイスパ ラメーターはごく簡単だが大きな欠点をもつ.結晶面が ある軸に平行な場合はその軸との切片はないため,その ワイスパラメーターは無限大となり,軸変換などの計算 の場合は ∞ という指数は扱いにくい. 上記の問題は文政 8 年 (1825 年) にウィリアム・ヒュー ウェルによって解決された. 6) そして,ヒューウェルの表記 法は天保 10 年 (1839 年) にウィリアム・ハロウズ・ミラー によって出版された著作 7) に採用されたことによって 「ミラー指数」 として一般に知られるようになった. *1 図 2 はある結晶面とその基底との切片を示している. この面は a 軸には p 番目の格子点,b 軸には q 番目の格子点,c 軸 には r 番目の格子点を通るのでそのパラメトリック方程 式は以下のとおりとなる (x,y,z はそれぞれ a,b ,c 軸の 座標である) . x p y q z r + + = 1 (1) p ,q,r は定数のため両側 pqr を掛けることができる. qrx pry pqz pqr + + = pqr pqr x p () + pqr y q () + pqr z r () = 次に,qr を h ,pr を k,pq を l,pqr を m と置き換える.
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NESPOLO, M. (2017). Miller Indices, Laue Indices and the Reflection Conditions. Nihon Kessho Gakkaishi, 59(4), 150–158. https://doi.org/10.5940/jcrsj.59.150
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