35 はじめに 生物試料を透過型電子顕微鏡 (TEM) で観察する一般的な 手法として, 高真空, 電子線衝撃に耐えられるようにする事を 目的に樹脂包埋法が用いられている. しかし,化学固定および これに続く脱水, 熱重合の過程で, 細胞の微細構造に様々な アーティファクトが生じることも示唆されている. 例えば,細胞成 分が流出したり, タンパク質の修飾や分解によって構造および 抗原性が変化したりすることが知られている. そのため, 酵素 活性や抗体標識によるタンパク質の細胞内局在の解析, 細胞 内イオン局在の正確な解析は困難である. この問題を解決する ひとつの手法として,凍結固定法が提唱されている. 化学固定 法と凍結固定法の比較を図 1 に示す. 凍結固定 (この例では, 高圧凍結法) した試料では化学固定した試料に比べて, 細胞 膜の凹凸が無くスムースで,脂質二重膜が明瞭に観察されるな ど,明らかな違いが見て取れる. その他,様々な所見から細胞 が生きていた時に近い状態で保持されていると言える. Plant Morphology vol. 25 pp. 35-42 INVITED REVIEW 最新の高圧凍結装置とアプリケーション 伊藤喜子 ライカ マイクロシステムズ株式会社 〒108-0072 東京都港区白金 1-27-6 白金高輪ステーションビル 6F 要旨 : 一般的な電子顕微鏡用試料の前処理では, 化学固定およびそれに続く脱水, 置換の過程で細胞の微細構造変化や可溶 性成分の流出などのアーティファクトが生じることが知られている. これを解決する手法として, 細胞の状態を瞬時に止めることので きる凍結固定法が提唱されている. 通常, 水は凍る際, 結晶化して細胞内で氷晶が形成される. この際, 微細構造の破壊が起 きる. そこで, 電子顕微鏡観察レベルで構造を保持するためには, 水を非晶質に凍結する必要がある. 凍結手法には大気圧下 で試料を急速に冷却する急速凍結法と, 2100 bar (210 MPa) の圧力下で凍結する高圧凍結法がある. 急速凍結法では非晶質に 凍結できる深さが約 5 ~ 20 μ m であるのに対し, 高圧凍結法では約 200 μ m と言われており, 植物等のやや大きめな細胞, さらに 組織レベルでの解析にも大いに役立つ手法となっている. 凍結固定後のワークフローは, 凍結状態で固定脱水を行った後, 樹 脂包埋および薄切して観察する凍結置換法と, 凍結状態の試料をそのままクライオミクロトームで薄切して, cryo-TEM で観察する CEMOVIS などがある. また, 凍結試料の凍結切削した断面を cryo-SEM で観察する試みもなされている. 本総説では, 高圧凍 結の最新情報とそのアプリケーション例を紹介する. Summary: The conventional sample preparation for electron microscopy makes the artifacts in the process of dehydration and substitution, such as the changes of ultrastructure of cells and outflow of soluble components in the cells. Cryofixation has been proposed as the method to overcome the inconvenient and unexpected problems, by freezing the cells very rapidly. Because water freezes to be ice crystals with increase of the volume, and those formed in the cells destroy the ultrastructure. To preserve the ultrastructure of native cells at the resolution of electron microscopic level, it is required to make amorphous ice at the process of cryofixation. As the methods for it, rapid freezing to cool samples rapidly in normal pressure and high pressure freezing to freeze under 2100 bar have been proposed. In this review, the information of the latest high pressure freezing systems and their application has been introduced. The depth of good freezing in amorphous ice made by rapid freezing is 5 to 20 μm, on the other hand, that of high pressure freezing is about 200 μm. So the high pressure freezing can be applied for the electron microscopic analyses of cells and tissues at closed-to-native state. Workflows after cryofixation are, for example, freeze substitution and cryo-TEM observation of vitreous ice sections, or CEMOVIS. Furthermore, the surface of cryo-sectioned frozen samples has been observed by cryo-SEM.
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Ito, Y. (2013). The latest high pressure freezing systems and their applications. PLANT MORPHOLOGY, 25(1), 35–42. https://doi.org/10.5685/plmorphol.25.35
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