1 .はじめに 自然界の防汚表面としてハスの葉や里芋の葉が知られてお り,これらの葉の表面は水滴がコロコロと転がり落ち (図 1) , 汚れも付着しにくい。これは葉の表面に数マイクロメートル 程度のサイズの突起が配列しており,さらにその先端には疎 水性のワックスがサブミクロンオーダーの微細な凹凸構造を 形成しているためである 。このような階層性を持つ凹凸構 造があると,実表面積は大きくなり (Wenzel 状態) ,しか も 微 細 な 凹 の 部 分 に は 水 が 入 り 込 み に く い た め (Cassie-Baxter 状態) ,表面はいっそう水に濡れにくくなる。ハス や里芋の葉はこうした微細構造とワックス状化合物の相乗効 果により超撥水性を示し,Lotus 効果として呼ばれている。 また,撥水性表面では水滴が転がり落ちるときに汚れを一緒 に付着していくので自己清浄 (セルフクリーニング) 機能があ ると言われている。ただし,これは水性汚れに対して有効で あり,疎水性の有機系の油汚れは落ちにくい 。このような 表面を模倣して調製した表面として,ナノインプリントした ポリフルオロアクリレート ,シリカナノ粒子とフルオロア ルキルシランでナノスケールの凹凸を賦与したゾルゲル膜 , アルミナゾル表面を沸騰水処理しフルオロアルキルリン酸で 処理した膜があげられる 。いずれも Cassie-Baxter 状態によ り超撥水性を示すが,摩擦・摩耗による表面凹凸の力学的な 安定性に問題がある。 一方,水中で泳いでいる魚の体表に油汚れが吸着すること はなく,常にその表面は清浄に保たれている。その秘密は鱗 にある。魚の鱗は主にリン酸カルシウムと親水性のタンパク からできている 。その表面には,幅 30-40 μm 高さ 100-300 μm のサイズの突起があり,さらにこの突起の先端はさ らに数 μm 程度の細かな突起があり,ハスの葉と同様に,階 層的な凹凸構造をしている。これらがタンパクなど高分子電 解質からなる粘液を保持することで鱗の表面は常に粘液で覆 われており,水中では油や海洋生物の付着を防いでいる。つ まり水中において撥油性や耐生物汚損性が発現する。船舶で はこれに似た機能を海水に徐々に溶解する高分子系塗料で実 現しているが,環境問題の観点から環境に優しい船底塗料の 実現が求められている。 カタツムリの殻も水膜が形成されることにより防汚性を示 すと考えられている 。カタツムリは土汚れがつきやすい環 境で生活しているにも関わらず,その殻が汚れている姿を見 かけることは珍しい。カタツムリの表面にはキチン質で構成 された殻皮 (かくひ) と呼ばれる薄膜があり,石灰質でできた 殻の表面を覆っている。最表面は主に硬タンパク層でできて いる。その表面には細かい凹凸や規則正しい微細なディンプ ルが無数に存在し,接着面積を少なくすることによって殻皮 に付着したゴミや汚れなどを雨で洗い落とす効果がある。 このように,自然界ではサブミクロンオーダーの微細な凹 凸構造により水や高分子電解質を保持し,表面の親水性を高 めることで防汚性を達成する工夫が見受けられる。しかし, 自然を模倣した超親水・防汚表面 高 原 淳 a,b ,小 林 元 康 b a 九州大学 先導物質化学研究所 (〒 819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744) b JST ERATO 高原ソフト界面プロジェクト (〒 819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744) (a) (b) 油滴 水膜 空気 水滴 図 1 (a) 階層的な微細凹凸構造によるハスの葉の撥水機構と (b) カタツムリの殻によるセルフクリーニング機構の概念図
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TAKAHARA, A., & KOBAYASHI, M. (2013). Nature-inspired Super Hydrophilic and Antifouling Surfaces. Journal of The Surface Finishing Society of Japan, 64(1), 15–20. https://doi.org/10.4139/sfj.64.15
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