現在,COVID-19禍の真っただ中で本稿を執筆している.感染症は,このように全てを吹き飛ばす威力があることを身をもって体感し,自分が生きている間にこのような事態が起こり,自分にも迫ってきていることに驚愕している.院内でも,生活習慣病などはまさに自己責任といった感じで,癌ですら二の次といったところであろうか.かくなる私も三月内に2回東京経由の出張をしたことで,長崎では危険分子として扱われ,また関東圏での国内留学や帰省していた教室員は現在自宅待機中で,復帰前にはPCR検査を受けるようである.長崎大学は熱帯医学など感染症を主軸とした大学であるので,厳格な基準を設けて臨んでおり,致し方ないかとも考える. さて,そのようななかでも本誌の発行は進み続ける.医学,科学の進歩はたゆまぬものであり,止めてはいけないものである.いずれCOVID-19も過去の話となり,もとの生活に戻ったときに一からでは困るのである.できる範囲でアカデミア活動は継続すべきであろう.特にCOVID-19が出現してからは,症例報告の重要性が世界で再認識され,軽視されがちであった症例報告に日が当たっていることは,本誌の存在意義の自信を再認識させてくれる. 本稿での私の一押し論文は,筑波大学の馬上らの「幽門輪に近接した胃異所性膵管内乳頭粘液性腫瘍に対して胃内手術により幽門機能温存が得られた1例」である.手術のアイデア,巧みさのみならず,経験された疾患も世界で11例目の報告と大変価値が高い. 私事ではあるが,思い返すと最初の医学論文筆頭著者は「日本消化器外科学会雑誌」であった.「十二指腸悪性神経鞘腫の1例」で1994年27巻1号 p. 112-116に掲載された.当時の元島幸一講師(故人),橋本聡先生に御指導いただき,「ノイヘーレンが論文書くこともあるのか」と可愛がってもらいながら,なんとか仕上げた.当時はスライドも手作りのブルースライド時代であり,図表は当時最新機器であったMacintosh Classicを抱えて当直先に出向き,取り組んだ事が今でも思い出される.掲載された暁には当時の兼松隆之教授に「自分達が経験した稀有な症例を広く世に伝えて共有することは,外科医としても大切である」とお褒めいただいた.私のその後の道に少し関わったのが,本誌でありその編集委員を務めさせていただいているのも縁を感じる. 近年,若手外科医の症例報告の場が減りつつあり,最初の一歩を踏み出す場がないことを危惧している.貴重な成功体験を得ることができない.本誌の役割は,COVID-19と私の初期体験からしても大変重要であることは間違いないようである. (江口 晋) 2020年4月1日
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Eguchi, S. (2020). EDITOR’S NOTE. The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery, 53(4), en4. https://doi.org/10.5833/jjgs.2020.en004
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