血栓止血誌 21 (6) :553~561, 2010 1. はじめに 近年の外科手技の改良や低侵襲技術の進歩は, 周術期の凝固系障害を大きく改善した.その一方 で,血栓症予防のための抗血小板・抗凝固療法 が人口の高齢化とともに重要性を増してきてお り,術前に抗血小板療法や抗凝固療法を投与され た症例など止血に難渋する症例に遭遇することも 稀ではない.周術期の凝固管理にあたっては,止 血機能を迅速かつ鋭敏に反映するモニタ装置の活 用が望ましい.プロトロンビン時間(PT )と活 性化部分トロンボプラスチン時間(APTT )は 凝固検査として最も汎用されているが,これらの 検査が患者の止血機能を反映するというデータは 少ない 1) .PT・APTT による術後出血予測が困 難な理由としては,血小板の除外された血漿を用 いるため,血管損傷部位における活性化血小板に 依存した凝固反応経路を測定していないこと,さ らに,フィブリン重合の起こる前に PT・APTT の測定が終了するので,クロット(血餅)の強 度を判定できないことなどが挙げられる 2) .この 様な観点から,全血を用いてクロットの粘稠度 (viscoelasticity )を測定するトロンボエラストメ トリー(thromboelastometry ) (注) の有用性が見直 されつつある 3) .本稿では,このモニタ装置の基 本原理,一般凝固検査やトロンビノスコープとの 比較,臨床汎用性,さらに使用上の注意点につい て概説する. (注) 本稿では用語統一のため,現在日本で販売されている トロンボエラストメトリー(ROTEM;フィンガルリン ク社)を中心に解説し,トロンボエラストグラフィー (TEG:ヘモネティクス社)を同義として扱う. 2. 止血機序とモニタリング 通常,血管損傷部位では,図 1 に示されるよ うなプロセスを経て,クロットが形成される.血 小板表面の糖蛋白(glycoprotein:GP )レセプ タである GPIb/IX は,フォンウィルブランド因 子(von Willebrand factor:vWf )を介して血管 損傷部位に露出されるコラーゲンに粘着する.血 管外には組織因子(tissue factor:TF )も露出 され,血中の活性型第 VII 因子と結合して第 X 因子活性化(Xa )を経て微量のトロンビンを生 ずる 2) .コラーゲンおよびトロンビンによる血小 板活性化は,局所の血小板凝集を促進し,その表 面には第 V 因子(α顆粒より放出) ,第 VIII 因 子(vWf を介し GPIb/IX に結合) ,フィブリノ ゲン(GPIIb/IIIa に結合)などが集積する.微
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OGAWA, S., KAWASAKI, J., & TANAKA, K. (2010). Management of Perioperative Hemostasis using Thromboelastometry. Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis, 21(6), 553–561. https://doi.org/10.2491/jjsth.21.553
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