1 .はじめに 自然界での現象に倣ったバイオミメティクス的観点からの 材料設計が近年盛んに検討され,製品化されているものも数 多くある。 「接着」は,バイオミメティック材料作製におい て重要なキーワードの 1 つであり,様々な生物の仕組みから 発想された研究開発が行われている。なかでも,貝類の接着 機構を模倣した技術開発が注目をあびている。イガイ目イガ イ科に属する二枚貝の 1 種であるムラサキイガイは,足糸と 呼ばれる接着性のタンパク質を吐き出し岩肌などに接着して 生活している。既往の研究より,ムラサキイガイは岩肌のみ ならず,金属材料やガラスなどの無機材料,ならびに様々な 種類の樹脂材料など,基材の材質を問わず接着することが知 られている。これらの接着には,足糸タンパク質中に豊富に 含まれているアミノ酸ドーパ (Dopa) のカテコール基が強く 関与している。2007 年,Lee と Messersmith らは,ムラサキ イガイの接着性の足糸タンパク質を模倣したカテコール系高 分子「ポリドーパミン (PDA) 」による汎用性の高い表面改質 法を報告した 。Dopa の誘導体であるドーパミン (DA) の自 己酸化重合により得られる PDA は,簡便な操作で様々な材 料表面に被覆可能で,かつ 2 次修飾も容易であることから多 くの研究に利用されている 。 話は少し変わるが,長い年月をかけて生物組織が鉱物など に置きかわってできる化石は通常,生物本来の色は残らない。 しかし保存状態が良いと極稀に,当時の鮮やかな色が残った 鳥の羽などの化石が発見されることがある。Prum らは, 4,000 万年前の色の残った鳥の羽を電子顕微鏡などで詳細に解析し た結果,これらの色は羽内部で形成されている微細構造に起 因する「構造色」で,微細構造を構築している素材は「メラ ニン」であることを報告した 。メラニンは,アミノ酸 Dopa が酵素反応によって重合した生成物で,自然界ではメ ラニンが構築する微細構造由来の構造色をしばしば目にする。 例えば,鮮やかな孔雀の羽の色は,柱状型のメラニン顆粒が 形成する微細構造由来の構造色である。近年, 前述の PDA が, その構造類似性からメラニン模倣体としても注目されている。 本稿前半では,PDA を利用したユニバーサル表面改質技 術について,筆者らの最近の研究成果も含めて概説する。後 半では,PDA をメラニン模倣体とみなして,構造色を基盤 とする光学材料作製へと展開している最近の研究例について 紹介する。 2 .ポリドーパミン (PDA) を用いる表面改質技術 2.1 PDA を用いたユニバーサル表面改質技術 図 1a に,現在提唱されているいくつかの DA の重合機構 についてまとめた。DA の重合機構は非常に複雑で,現在で も多くの研究が進行している。従来は,PDA は,塩基性溶 液下において DA の酸化によって生成する 5,6-ジヒドロキシ インドール (DHI) が共有結合でつながった重合物と考えられ てきた 。一方で,DHI やその誘導体が,π-πスタッキング 相互作用や水素結合を介して物理結合による超分子会合体を 形成している可能性を報告した論文 もあるが,今のところ, 上述の 2 つの機構を組み合わせた構造が支持されている。す なわち,PDA は明確な単一構造を持つ高分子ではなく,共 有結合により分子鎖が 3 次元的に伸長した構造と,非共有的 な物理的相互作用が共存した構造と考えられている 。 一般に PDA 薄膜の作製は,塩基性に調整した DA 水溶液 に被覆対象の基材を浸漬し,常温で撹拌することで行われて いる。重合時間と共に基材表面での PDA の膜厚は増加し, 数十 nm 程度の薄膜が形成される。PDA は,骨格内に多くの カテコール基 (ヒドロキシル基) ,アミノ基,ならびにベンゼ ン環を有する。このため,親水性の樹脂材料や無機材料,金 属材料に対しては水素結合や配位結合により,疎水性の樹脂 材料にはπ-π相互作用などの疎水性相互作用により結合し, 材質を問わず様々な材料表面に被覆が可能である (図 1b) 。 テフロンやポリジメチルシロキサンなど,従来の手法では改
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KAWAMURA, A., & KOHRI, M. (2017). Polydopamine-Assisted Surface Modification and Optical Application. Journal of The Surface Finishing Society of Japan, 68(3), 138–142. https://doi.org/10.4139/sfj.68.138
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