1 .はじめに 本稿では,2012 年から量産の始まったアモルファス酸化 物半導体 (AOS) 薄膜トランジスタ (TFT) について,大面積ス パッタリング技術と,製膜条件と膜構造・特性の関係につい て紹介する。2012 年以前までに平面ディスプレイ (FPD) の 画素制御に使われてきた TFT としては,もっとも広く使わ れているアモルファスシリコン (a-Si) と,小型~中型の高精 細液晶ディスプレイ (LCD) や有機 EL ディスプレイ (OLED) に使われている多結晶シリコン (poly-Si) がほとんどであった。 他には,ロシアに限定されているが,2012 年 5 月に販売を 開始した Plastic Logic 社の電子書籍に有機半導体が使われて いる だけである。a-Si の製膜には RF プラズマを用いたプ ラズマ化学堆積 (PECVD) 法が使われており,現在では 2,880 ×3,130 mm の 大 き さ の マ ザ ー ガ ラ ス を 用 い る 第 10 世 代 (G10) プロセスで生産されている。poly-Si は a-Si をレーザー 結晶化させるエキシマレーザーアニール低温多結晶シリコン (ELA LTPS) が主流であり,今までは三星電子の G5.5 が主で あったが,現在は G6,近い将来は G8 へと大型化していく 予定である。AOS TFT としては,スパッタターゲットが結 晶 InGaZnO である,いわゆる 1:1:1 組成のアモルファス In-Ga-Zn-O(a-IGZO) が実用化されている。 これまでに AOS TFT を使って発表されたディスプレイは 主にシャープが生産しており,昨年 3 月に発売された new iPad の 一 部 の Retina(2,048×1,536 RGB 画 素 )LCD, 今 年 6 月から販売を開始した 5.9 型 FHD (1,920×1,080) LCD スマー トフォン,7 月発売予定の 7 型 1,920×1,200 LCD タブレット, 2 月から販売している 32 型 4K2K(3,840×2,160)LCD ディ スプレイなどがある。LG 電子が今年 2 月から発売を始めて いる 55 型 FHD OLED TV がこれらに続いている 。試作品 としては,CES2013 でソニー,パナソニック,AUO が発表 し た 56 型 4K2K OLED,SID2013 で AUO が 発 表 し た 65 型 FHD OLED ,FPDI2010 で三星電子が発表した 70 型 4K2K LCD,などがサイズや解像度で最先端を行く。 以下ではまず,大型生産設備としてのスパッタ装置の紹介 をし,そのあと,当グループのデータを中心に,堆積条件, 熱処理条件と膜特性・TFT 特性の関係をまとめる。個々の全 ての事例に参考文献を挙げることはできないので,文献 をご覧いただきたい。 2 .大型スパッタリング装置 我々が最初に AOS TFT を発表した時 には,製膜方法と してパルスレーザ堆積法を用いていたが,その後,共同研究 を し て い た キ ヤ ノ ン で RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ (RFMS) 法でもほとんど同じ特性の TFT が作製できることが 確認され ,現在は RFMS あるいは ACMS が主流となり, DCMS も試されている。いずれも室温~ 100 ℃程度の低温 で製膜し,その後熱処理をすることで,均一性・安定性の向 上と特性制御が行われている。 量産の観点から a-IGZO TFT が使いやすい点は,現在主流 の a-Si TFT と同じ Inverted Staggered 構造が使え,基本的に は半導体層の製膜装置だけを a-Si の PECVD から a-IGZO の MS に変えるだけで良いことが挙げられる。 FPD にはスズドープ酸化インジウム (ITO) が透明電極とし て用いられており,DCMS によって作製されている。その ため,ITO 用の量産装置を AOS 製膜に用いることもできな くはないが,両者では要求仕様が大きく異なることに注意が 必要である。いずれの場合にも膜厚の均一性が要求されるの は当然として,特性としては,透明電極として用いられる ITO の場合は一定値以上の高い電気伝導度と可視光透過率が 満足されれば十分である。一方で,半導体層の場合,TFT の 閾値電圧,電界効果移動度,閾値下電圧勾配などの動作特性 が電子移動度,自由電子密度,欠陥密度などにより決まるた め,これらを高い均一性・安定性で製造する必要がある。つ まり,半導体の場合には要求仕様が狭い範囲内に限られるた め,電極材料よりもはるかに厳しい条件を満たす必要があり, 製造装置にも一段の工夫が必要になる。また,IGZO のター ゲットは作製条件により電気伝導度を高くすることができる アモルファス酸化物半導体薄膜 神谷 利夫 a ,雲見 日出也 a ,細野 秀雄 a a
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KAMIYA, T., KUMOMI, H., & HOSONO, H. (2013). Amorphous Oxide Semiconductor Thin Films. Journal of The Surface Finishing Society of Japan, 64(7), 392–395. https://doi.org/10.4139/sfj.64.392
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