キーワード エピジェネティクス ,シトシンメチル化,適応進化,突然変異誘発,トランスポゾン,有用形質 はじめに トランスポゾンは,染色体上を移動(転移)する DNA 断片であり,その転移によって遺伝子の機能や染色体の 構造を改変することで,ゲノムの多様性を拡大する.育 種学研究において,転移活性を有するトランスポゾンは, 有用品種の作出や遺伝子の機能解析を目的とした変異創 成に利用されている.本ワークショップでは,育種上重 要な形質にトランスポゾンが関与する事例を紹介すると ともに,トランスポゾンの転移の制御やトランスポゾン を利用した変異集団の創成に関して議論し,育種を推進 するツールとしての利用可能性を検証した.議論の対象 とする具体的な視点として,以下のことを挙げた. ・トランスポゾンの転移はどのように制御され,どのよ うに起きているのか ・トランスポゾンの転移を人為的に制御することはどの 程度まで可能なのか ・トランスポゾンの転移を利用した変異誘発を行う場 合,どのようなことを考慮する必要があるのか ・トランスポゾンの転移によってどのような植物が作出 されているのか,有用な植物は出来得るのか 各演者はこれらのことに留意をして準備し,情報を提 供した.すでにトランスポゾンを育種に利用している研 2015 年 1 月 20 日受領 Correspondence: kanazawa@res.agr.hokudai.ac.jp 究者,ならびに,これからその利用を考えている研究者 にとって,情報を整理して新たな方向性を見出す機会と なることを本ワークショップの主な到達目標とした. 演題 1 遺伝子重複とレトロトランスポゾンの挿入を介 したダイズの適応進化 金澤 章・土屋真弓・阿部 純(北大・院・農) トランスポゾンの挿入によって遺伝子が破壊された場 合,単純にはその個体の環境適応力が低下することが想 定される.しかしながら一方で,環境の適応にトランス ポゾンの転移・挿入が寄与していると考えられる事例が 存在する.このことから,トランスポゾンを利用した育 種において,個体の環境に対する適応力を向上させるこ とも,その目標の一つとして想定できる.本発表では, トランスポゾンの挿入が環境の適応に寄与した事例とし て,ダイズのレトロトランスポゾン SORE-1 を挙げ,そ の挿入による環境適応の獲得機構ならびに転写の制御と 転移の実態に関する解析結果を紹介した.また,これま でに得られている知見に基づき,トランスポゾンの挿入 による変異創成の幅広さを考察した. ダイズは 4 倍体を起源とする 2 倍体植物であり,その ゲノムにおいては遺伝子の 75%が重複して存在する.重 複した遺伝子に関する古典的な進化モデルでは,重複し た遺伝子の一方が偽遺伝子化する,もしくは新機能を獲 得し,異なる遺伝子になると予想されていた.しかしな がら,さまざまな生物においてゲノム情報が蓄積するに 育種学研究 17: 77-87 (2015)
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Kanazawa, A., Fukai, E., Miyao, A., Saze, H., & Tsukiyama, T. (2015). Transposon-mediated mutagenesis and its application to plant breeding. Breeding Research, 17(2), 77–87. https://doi.org/10.1270/jsbbr.17.77
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