1.はじめに 生醤油は,通常の醤油と異なり火入れ工程を経てい ない新しいタイプの製品として普及しつつある。火入 れによって付与される火香に関与する成分は,これま でにフラノン類,ストレッカーアルデヒド類などのい わゆるアミノカルボニル反応生成物がいくつも報告さ れている(第 1 図) 1) 。 一方,一般に嗅覚で検知する香気成分は検知閾値を 有しており,閾値以下の濃度ではにおいを感じない。 検知閾値は化合物により大きく異なり,数 % ~数 ppt レベルまで非常に広範囲に及ぶ。そのため,含有 量の多い成分が必ずしも香りにとって重要な成分では なく,また通常の分析では検出できないほど微量な成 分が重要な香気成分である可能性もある。従って,生 醬油の香りについても,これまでの研究報告で重要な 香気成分が十分に明らかにされているかどうか不明で ある。 そこで本稿では,近年の香気寄与成分の探索手法と して主流となっている Aroma Extract Dilution Anal-ysis(AEDA)を生醬油に適用した例を紹介する 2) 。 AEDA は,段階的に希釈した香気濃縮物を順次 Gas Chromatography-Olfactometry(GC-O) に て 分 析 す る方法であり,成分の検出を人の鼻で行うため,各成 分の重要性は含有量ではなく,検知閾値の何倍含まれ ているか(FD-factor)によって判断される。 さらに,生醬油と火入れ醤油の香気特徴の違いを明 らかにするために,火入れ相当の加熱を行った生醬油 (本稿では, 「火入れ醤油」と記載する)にも AEDA を 適用し,生醬油との比較を行った。また,生醤油と火 生醤油の香気寄与成分の解明と加熱によ る変化 生(なま)醤油は火入れを行わず火入れの殺菌処理と同等な処理を行った新しいタイプの製品で普及しつ つある。そこで,著者は生醤油に比べて,火入れ醤油において,AEDA 法により,高い FD-factor を示した 成分の中で,2-methoxy-4-vinylphenol と 2,6-dimetoxy-4-vinylphenol のみが顕著に増加し,さらに,標準添 加法により,3-methylbutanal,2-methylbutanal,methional,phenylacetaldehyde,HDMF が有意に増加 していることを明らかにしたので,解説いただいた。生醤油に興味のある方は是非ご一読いただきたい。 金 子 秀 第 1 図 醬油の火入れにより生成する成分
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KANEKO, S. (2015). Studies on the Key Aroma Compounds in Raw (Unheated) Japanese Soy Sauce and those Changes during Heating. JOURNAL OF THE BREWING SOCIETY OF JAPAN, 110(1), 20–25. https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan.110.20
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