水分子の拡散の程度を画像化した拡散強調画像(diffu-sion weighted imageDWI)は細胞レベルの微視的な情 報の評価が可能であることから,急性期脳梗塞をはじめ とする多くの中枢神経疾患の鑑別診断に利用されてい る.この拡散現象の方向性と速さに着目した拡散テンソ ル画像(diffusion tensor imagingDTI)は,脳や脊髄の 白質線維というきわめて一方向性の強い構造の質的な評 価が可能であるという特徴を有することから,臨床応用 が急速に進みつつある. 本稿では,まず初学者のために基本的な拡散テンソル の概念を解説し,その次に拡散テンソル撮像法の現在の トレンド,および現在にいたるまでの基礎および臨床で の研究成果について提示する. 1 MRI 拡散現象とは,エネルギーや物質が濃度の高いところ から低いところに移動し定常状態に向かう現象であり, これを可視化したモデルがブラウン運動である.水分子 のブラウン運動は,温度や周囲の環境に従ってその大き さや方向が大きく変化することから,MRI は水分子の拡 散現象を画像化することで,対象とする細胞の状態など の微視的な情報の評価を可能にしている 1) .臨床的には, 拡散強調像は T1,T2 値といった従来の MRI パラメータ とは独立した物理現象を利用した画像であることから, 従来困難であった病変の検出や鑑別が可能であり,その 計測値は理論的には静磁場強度などの装置や撮像法の影 響を受けないために,物理量としても計測可能である. 拡散の異方性(diffusion anisotropy)とは方向によっ て拡散の速さが異なるという性質のことである 2) .脳白 質や脊髄のような線維の方向が水分子の運動を制限する 構造においては,神経線維に沿った方向の拡散は速く, 神経線維と直行する方向の拡散は遅い.方向による拡散 の速さの差が大きいことを,異方性が強い(anisotropic) と表現する. 拡散の異方性を表現するためには,一定方向に走行す る神経線維上の 1 点における神経線維の方向と神経線維 に直行する 2 方向の計 3 方向,およびそれぞれの拡散の 速さを xyz 座標で記述する必要が生じる.そこでテンソ ルという概念が必要となる. 3 次元空間での拡散テンソル D は次に示す 3×3 の行列 で記述することができる. 1 2 Abstract 3 Key words diffusion tensor imaging DTI diffusion anisotropy diffusion tensor tractography DTT qspace imagingQSI diffusional kurtosis imaging DKI Spinal Surgery2932792862015
CITATION STYLE
Sakamoto, S., & Miki, Y. (2015). Forefront of Spinal Cord Diffusion Tensor Imaging. Spinal Surgery, 29(3), 279–286. https://doi.org/10.2531/spinalsurg.29.279
Mendeley helps you to discover research relevant for your work.