はじめに 大澤 良(筑波大学生命環境系) 日本における育種事業は,公的機関による育種と種苗 会社による民間育種とにわけられる.イネ・ムギ・ダイ ズなど主要作物および果樹の育種は前者,野菜や花の育 種は後者により推進されてきている.民間育種は,古く は官営育種に対して個人育種家による育種のことであり, 庄内の稲育種などがその代表である.近代においては, 民間育種は大規模育種を行う企業育種のことを指すよう になった.育種はもとより種苗の増殖や販売までを含め て経営する国内企業は, (株)サカタのタネ,タキイ種苗 (株)など世界有数の売り上げ規模を誇る企業から,日本 やアジアに限定して活動している企業まで幅広い企業規 模があるが,農薬,食品など同分野の業種と比べると全 体的に企業規模は小さく,社会への発信も少ない. 育種学会における種苗会社関係者の発表は少なく,各 種苗会社がどのような育種目標を持ち,どのような手法 を重視し,また実践しているのかが育種学会関係者に全 く情報が届かない状況である.しかし,実際の種苗育種 では,日本では特に野菜や花卉において,民間育種が大 2016 年 2 月 15 日受領 Correspondence: osawa.ryo.gt@u.tsukuba.ac.jp きな役割を担っている.私たちが育種学会で発表してい るような研究内容は,民間育種関係者には興味がないの か,あるいは役に立たないのかもしれない.育種学会で ある限り,種苗会社にも貢献できる研究がなされてしか るべきであろう. 育種学会では数多くの発表がなされているが,その成 果と民間育種とのつながりを実感する機会は少ないかも 知れない.役に立っているとしたらどのような成果なの かを知ることは育種研究者にとって必要不可欠であろう. 本シンポジウムでは,国内民間種苗会社である(株) サカタのタネの加々美氏とタキイ種苗(株)の山本氏に は日本の民間育種の老舗として現状と課題,さらには将 来展望について,みかど協和(株)の酒井氏には今後増 える可能性もある外資系の種苗会社からの話題提供を, (株)トーホクの新倉氏からは育種における採種の重要性 を「採種学」再考を期待するとして話題提供していただ いた.さらに,わが国ではほぼ不在である穀類の育種企 業であり,野菜育種もその範疇におく国際的大手企業の モンサント社から穀類育種におけるアジア戦略を紹介い ただいた.このシンポジウムが今後の育種学会が果たす 役割を学会員で共有する起点となれば幸いである.本稿 では,実際の講演内容を書き下すことは難しい面もあり, 要旨にとどめた講演者も多い.しかし,各講演後の討論 を残すことで,講演での中心議題あるいはシンポジウム 育種学研究 18: 13–20 (2016)
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Ohsawa, R., Grapes, L., Kagami, T., Yamamoto, M., Sakai, T., & Niikura, S. (2016). Present state, challenges and future prospects of breeding in private seed company. Breeding Research, 18(1), 13–20. https://doi.org/10.1270/jsbbr.18.13
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