1. はじめに 両親媒性のリン脂質分子がシート状にずらりと並 び,それが 2 枚,疎水部を内側に,親水部を外側にし てサンドイッチ状の向かい合わせになったものが,リ ン脂質 2 分子膜(厚さは約 5 nm)である.この構造が, 細胞膜やオルガネラ膜の主要な構成要素であり,細胞 および細胞器官の内外を隔てる役割をし,膜タンパク 質が動き回る流動的な場を提供している.リン脂質 2 分子膜が,水中で nm-µm スケールの小胞となった ものをリポソームとよぶ.中でも特大サイズ(直径 1-100 µm 程度)のジャイアント・リポソームは,細 胞と同程度の大きさの閉じた微小空間であり,最も単 純な細胞モデル,あるいは,細胞モデルの"器"とし て長く興味をひきつけてきた 1) .しかし,特に生理的 な溶液条件下では,細胞サイズのリポソーム作製には 時間と手間がかかり,生成効率も総じて高いとはいえ なかったため,細胞機能を模倣するモデルとしてはか なり単純なものにとどまっていた.ところが近年,新 たな手法が続々と試され,DNA やタンパク質などを 任意に封入することが可能となり,これを利用して細 胞機能を人工的に再構成する試みが発展しつつある. 本稿では,筆者らの研究を中心に,これらの手法につ いて紹介したい. 2. たな 従来,ジャイアント・リポソームは,有機溶媒を揮 発させたあとに形成されるリン脂質の乾燥フィルム を,自発的に,あるいは交流電場をかけながら,水 和・膨潤させて得るのが主流であった.しかし近年, Pautot らが,リン脂質を溶かした油中に水を分散させ て,界面がリン脂質に覆われた微小な油中水滴を得, これを遠心力でマクロな水相に落とし込むことで, ジャイアント・リポソームの作製に成功した 2) .同手 法を用いて,Noireaux らは内部で膜タンパク質を発現 し,機能させるリポソームの作製 3) ,また Pontani ら はリポソーム内部でのアクチンコルテックスの形成を 実現している 4) .これらの例において膜タンパク質 α-hemolysin が機能していることから,得られた 2 分 子膜の実用性が確認されている.さらに,サイズ制御 を目的として,マイクロ流路を用いた研究も活発化し た.Funakoshi らは,リン脂質に覆われた油水界面同 士を接触させ,そこに形成される 2 分子膜にジェット 水流を吹きつけることで,均一サイズのジャイアン ト・リポソームを作製している 5) .また,Sugiura ら は,均一サイズの油中水滴を流路を用いて効率よく生 成し,内部を凍結させたのち,界面活性剤をリン脂質 へ,油相を水相へ,それぞれ置換してジャイアント・ リポソームを得る手法を開発した 6) . 上に挙げた手法に共通するのは,リン脂質 2 分子膜 を得る過程で油水界面を援用しているという点であ り,ジャイアント・リポソーム作製の新たな方向性と いえるだろう.筆者らは,Pautot らと同じくリン脂質 に覆われた油中水滴をリポソームのテンプレートとし ているが,遠心力を用いない最も簡便な手法を用いて いる.次節に概要を述べるので,興味をもたれた読者 はぜひ試されたい. 3. からリポソームへの 筆者らの手法では,顕微鏡観察下,油中水滴を自発 的に水相へと移行させてリポソームを得ることができ る 7) . 実験の概要図を 1 に示す.厚さ 5 mm 程度の poly-(dimethylsiloxane)(PDMS) シートに直径 4 mm 程度の
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YAMADA, A., HAMADA, T., & YOSHIKAWA, K. (2009). A Novel Way to Make Giant Liposomes: The Spontaneous Transfer Method. Seibutsu Butsuri, 49(5), 256–259. https://doi.org/10.2142/biophys.49.256
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