The unforgettable case of amnesic patient H. M.

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高次脳機能研究 第 37 巻第 3 号 20(260) は じ め に 記憶が, 新しい経験を脳に記銘し, 固定(貯蔵)し, 想起する心的過程(山鳥 2002)であることは,今 日では自明の理であるが,記憶システムの解明は, 60 年前の症例報告から始まった。 1953 年,長年てんかん発作に苦しんでいた 27 歳 の男性に,両側の側頭葉内側部を切除する実験的な 手術が行われた。術後,発作は軽減したが,重篤な 記憶障害となってしまった。 1957 年,この症例が発表された当時,記憶は脳 に局在を持つとは考えられていなかった。この結果 は,記憶が言語と同様,脳の機能の 1 つであり,側 頭葉内側部が記憶に重要であることを示した。本症 例の今日的意味は,たった 1 人の患者が,当時の常 識を覆し,記憶システムの解明をもたらしただけで なく,さらなる探求の端緒となったことである。症 例 H. M. として,この男性は神経心理学史に永遠に その名を刻まれることとなる。 H. M. の登場後,記憶は脳内でどのように構成さ れるのかという研究が,遺伝子から行動レベルまで 幅広い分野に渡って現在も進行している。 Ⅰ.症例 H. M. 以前の記憶研究の状況 記憶は,紀元前より哲学の重要なテーマであった が,科学的なアプローチが始まったのは 19 世紀後 半である。Ribot は,逸話的に伝聞されていた記憶 障害を医学的に検証し,Ribot の法則と呼ばれる, 昔の記憶は残りやすく,最近の記憶ほど失われやす いという特徴を記載した(Squire ら 2009) 。 Ebbinghaus は, 無意味単語リストを自ら学習して, 記憶する,あるいは忘却するのにどのくらいかかる かを検討し,記憶が科学的手法で客観的に研究でき ることを最初に示した(Squire ら 2009) 。Müller と Pilzecker は,無意味単語リストを学習した直後 に,ほかの学習を挟むと,最初に学習したリストを 忘れてしまうことを発見し,記憶はまず一時的に保 存され,それが時間とともに固定されることを提示 した(McGaugh 2003) 。James は,記憶が現在の 瞬間の延長である 1 次記憶と,経験したのちいっ たん意識からは離れ,しばらく後に確かに経験した という意識を伴って思い出す 2 次記憶とに区別され ることを提案した(Squire ら 2009) 。これらの心 理学的研究から記憶の基本的な性質が知られるよう になっていた。 20 世紀になると,Montreal 神経学研究所を創設 した脳外科医 Penfield は, 難治てんかん患者に対し, 焦点の同定と,切除後の機能障害の回避のため,大 脳皮質を直接電気刺激しマッピングを行っていた。 Penfield は,側頭葉てんかんの焦点が,海馬,扁桃 体であると同定し,側頭葉内側部切除を行った。片 側であれば術後に機能障害の影響が少ないと判断し ■シンポジウムⅡ:古典的症例の今日的意味 忘れがたい健忘の症例 H. M. とその後 海 野 聡 子 * 要旨:1953 年,長年てんかん発作に苦しんでいた 27 歳の男性に,両側の側頭葉内側部を切除する実験的 な手術が行われた。手術は成功し,発作は軽減したが,重篤な記憶障害となった。1957 年,この症例が 発表された当時,記憶は脳に局在を持つとは考えられていなかった。この結果は,記憶が脳の機能の 1 つ であり,側頭葉内側部が記憶に重要であることを示した。本症例の今日的意味は,たった 1 人の患者が, 当時の常識を覆し,記憶システムの解明をもたらしただけでなく,さらなる探求の端緒となったことであ る。症例 H. M. として,この男性は神経心理学史に永遠にその名を刻まれることとなる。 (高次脳機能研究 37(3) :260-266,2017) Key Words:てんかん,側頭葉内側部,陳述記憶,非陳述記憶,出来事記憶 epilepsy,medial temporal lobe,declarative memory,non-declarative memory,episodic memory * 富士脳機能障害研究所附属病院 リハビリテーション科 〒 418 ─ 0021 静岡県富士宮市杉田 270 ─ 12 受稿日 2017 年 5 月 22 日

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Unno, S. (2017). The unforgettable case of amnesic patient H. M. Higher Brain Function Research, 37(3), 260–266. https://doi.org/10.2496/hbfr.37.260

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