Abstract
1. 電池と金属負極 金属の溶解析出反応は古くから電池の負極反応として 利用されてきた.最初の電池である Volta 電池では負極 活物質に亜鉛 (Zn) が用いられ,その後発明された Daniell 電池や Leclanché 電池でも同じ Zn が負極活物質として用 いられた.現在のマンガン乾電池やアルカリマンガン乾 電池,亜鉛空気電池などでも Zn が負極活物質として利用 され続けている.Zn が負極活物質として利用される背景 には,Zn が古来からよく知られている金属であることに 加 え, 水 溶 液 中 に お け る Zn 2+ / Zn の 標 準 電 極 電 位 が ¹0.763 V vs. SHE と低いにもかかわらず,水素過電圧が大 きいため,水溶液中でも金属電極として使用できること が挙げられるだろう.同様のことは鉛蓄電池の負極活物 質である鉛 (Pb) やニッケル-カドミウム蓄電池の負極活物 質であるカドミウム (Cd) についても当てはまる.酸性ま たは塩基性の水溶液の理論分解電圧が 1.23 V であるにも かかわらず,水溶液を電解液として用いた電池において 1.5 から 2 V 近い起電力が得られるのは,水素過電圧の大 きな金属負極が採用されているからである. アルカリ金属はこれらの金属よりも低い標準電極電位 をもつが,いずれも容易に水と反応するため水溶液を電 解液として用いた電池の負極活物質として用いることは 困難である.アルカリ金属の中でもリチウム (Li) は金属 元素の中では最も密度が低く,イオン化エネルギーが小 さいことから,電池の負極活物質として用いることで大 きな比容量が期待され,また,電極電位が低いことから, 電極電位の高い正極活物質と組み合わせることで大きな 起電力を実現できる.しかし,他のアルカリ金属と同様, 水溶液中では不安定であるため,Li を電池の負極活物質 として用いるためには,その電解液に非プロトン性有機 溶媒を用いた電解質溶液や非プロトン性イオン液体など の非水電解液,あるいは有機または無機の固体電解質を 用いる必要がある.例えば,Li を負極活物質に用いた一 次電池の電解液には炭酸プロピレン (PC) のような炭酸エ ステルの溶媒に,過塩素酸リチウム (LiClO 4),テトラフル オロホウ酸リチウム (LiBF 4) またはヘキサフルオロリン酸 リチウム (LiPF 6) などの電解質を溶解した電解質溶液が用 いられている.このような有機電解液の粘性率は水溶液 に比べて高い場合が多く,また,酸性または塩基性の水 溶液におけるヒドロニウムイオン (H 3 O +) または水酸化物 イオン (OH ¹) の Grötthuss 機構による高いイオン伝導が期 待できず,溶媒和されたイオンが Vehicle 機構で移動する ため有機電解液のイオン伝導率は低い場合が多い.加え て,有機溶媒の多くは可燃性であるため,安全性に対す る懸念もある.難燃性のイオン液体や固体電解質は有機 電解液に比べて安全性の観点から優れているが,イオン 伝導率は水溶液に比べると必ずしも高いとはいえない. このように,Li を実用的な電池の負極活物質として用い るためには電解液あるいは電解質の化学的安定性とイオ ン伝導性が極めて重要となる. 活物質が消費されればその役目を終える一次電池の場 合,金属からなる負極活物質は酸化されて電解液中に溶 解するか,固体として析出すればよい.しかし,放電後 に再び充電することで再利用する二次電池の場合,金属 の負極活物質は放電時に酸化されて酸化生成物となり, 充電の際にその酸化生成物を還元して元の金属の状態に戻 す必要がある.電解液中に溶解した金属イオンを還元析 出させる代表的な技術として電気めっきが挙げられる. 一例として銀めっきの場合,硝酸銀水溶液のような単純 浴では銀の析出溶解反応の交換電流が大きく,析出物が 粗大化しやすいため平滑なめっき膜を得ることは難しい. そこで,シアン化物イオンを加えると,銀イオンはシア ノ錯イオン ([Ag(CN) 2 ] ¹) を形成し,銀の析出溶解反応の交 換電流が小さくなるため,析出時の過電圧が増大し,微 細な粒子が析出し,平滑な銀めっき膜を得ることができる. 電気めっきでは一般に析出形態を制御するために錯形成す る配位子を加える錯体浴を用いたり,平滑剤や光沢剤な どと呼ばれる各種添加剤が加えられる.また,めっきさ れる基板表面の前処理,基板と対極の配置,電解液の撹拌, 電流密度など,平滑なめっき膜を得るために様々な工夫 が凝らされている.金属の負極活物質を二次電池に用い るということは,充電の際にこの電気めっきと同じこと を小さな電池のパッケージの中で実現することを意味する. 金属を負極活物質として用いた二次電池である鉛蓄電 池の場合,放電状態では難溶性の固体である PbSO 4 であ るが,充電時にはわずかに電解液中に溶解する Pb 2+ が還 元されて Pb として析出する溶解析出機構で充電反応が進 行すると考えられている.同様に,金属を負極活物質と した二次電池であるニッケル-カドミウム蓄電池の場合も, 放電状態では固体の Cd(OH) 2 であるが,充電時にわずか に電解液中に溶出する Cd 2+ が還元されて Cd となる.一方, 水溶液の電解液を用いた一次電池で広く用いられている Zn は,その酸化生成物の溶解度が比較的高いため二次電 池に用いることは困難であることが知られている.この ように実用化されている水溶液を電解液に用いた二次電 池における金属負極では,その酸化生成物は電解液に難 溶性の化合物であるという共通点がある.また,これら の二次電池の電解液には酸性または塩基性の水溶液が用 いられ,電解液のイオン伝導は移動度の高い [H 3 O] + や OH ¹ が担い,金属負極の酸化生成物である金属イオンが 電解液のイオン伝導を担う必要はない. 電 気 化 学
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1.二次電池におけるLi金属負極の利用. (2018). Denki Kagaku, 86(Winter), 281–285. https://doi.org/10.5796/denkikagaku.18-fe0027
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