聖マリアンナ医科大学解剖学教室 3 東北大学医学部人体構造学分野 (平成 21 年 9 月 9 日受付,平成 21 年 11 月 12 日受理) 要 約 南東北(宮城・福島・山形)由来の古墳時代人・古代人と北東北(青森・岩手・秋田)由来の江戸時代 人の頭蓋について,計測的分析と形態小変異の分析を行い,これら東北地方の古人骨に,縄文人やアイヌ の形態的特徴が,どの程度遺残しているかを調べた。比較資料として,東日本縄文人,北海道アイヌ,関 東の古墳時代人と江戸時代人,それに北部九州の古墳時代人と江戸時代人の頭蓋を用いた。計測的分析で は,顔面平坦度計測を含めた 18 項目の頭蓋計測値を用い,マハラノビスの距離(D 2 )にもとづいた分析と 線形判別分析を試みた。頭蓋形態小変異については,観察者間誤差が少なく,日本列島集団の類別に有効 であることが知られている 6 項目に絞って, スミスの距離 (MMD) にもとづく分析を行った。 D 2 でも MMD でも,縄文人に最も近いのは北海道アイヌであったが,東北地方の古墳時代人(計測的分析では古代人も 含む)がこれに次いでおり,古墳時代でも江戸時代でも,九州→関東→東北→北海道アイヌまたは東日本 縄文人という,明瞭な地理的勾配が観察された。同様の地理的勾配は,判別分析においても確かめられた。 このような地理的勾配から判断すると, 今回研究の対象にすることができなかった北東北の古墳時代人は, 南東北の古墳時代人よりも,さらに縄文・アイヌ群に近接するであろうと推測された。もし彼らが古代の 文献に出てくる蝦夷(エミシ)に相当する人々であったとしても,東北地方の古代日本人(和人)と縄文・ アイヌ集団の身体的特徴の違いは連続的であったと思われるので,古代蝦夷がアイヌであるか日本人であ るかという"蝦夷の人種論争"は,あまり意味がある議論とは思われなかった。
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Kawakubo, Y., Sawada, J., & Dodo, Y. (2009). In Search for Ainu’s Signs in the Tohoku Region, Japan: Cranial Metric and Nonmetric Analyses of Unearthed Human Skeletal Remains. Anthropological Science (Japanese Series), 117(2), 65–87. https://doi.org/10.1537/asj.117.65
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