Abstract
はじめに 植物や藻類のカロテノイドは光合成の補助色素として 光エネルギーの捕集(アンテナ色素)や強光で発生する活 性酸素の消去などの役割を担っている(Hashimoto et al. 2016).植物の主要なカロテノイドであるβカロテンやルテ インなどは葉緑体内で生合成されて,そのまま葉緑体内 に局在している(Cuttriss et al. 2007, Sun et al. 2018).アス タキサンチンはβカロテンやルテインの局在と異なり,小 胞体(ER)においてβカロテンから生合成され,ER上で同 時に生合成されるトリアシルグリセロールとともに,アス タキサンチンを含有した油滴(リピッドボディー)となり, 葉緑体やERの外に存在している(Chen et al. 2015).アス タキサンチンはβカロテンを前駆体とするカロテノイドの 一種で,それ自体がもつ赤い色味や高い抗酸化活性能を活 かして,化粧品,飼料の色揚げ剤,天然着色料,健康食品 などに利用されている(西田2012).図1はアスタキサンチ ン含有油滴をわかりやすく示した微分干渉顕微鏡像である. スライドグラスとカバーグラスに挟まれたヘマトコッカス の細胞は弱い力で押しつぶすと容易に割れる.押しつぶさ れた瞬間の細胞を観察すると,フリーの油滴が葉緑体の外 側にあることが明瞭に見て取れる.βカロテンと違い,ア スタキサンチンは葉緑体の外側にあることから,少なくと も光合成の光捕集アンテナ色素としては機能していないこ とが推測できる. 陸上植物や藻類にとって光は光合成になくてはならない ものであるが,一方で強い光は活性酸素を発生させ,細 胞にダメージを与える.このため植物や藻類は強光に対 するさまざまな適応戦略を発達させている.一般に陸上 植物では,葉緑体光定位運動(chloroplast photo-relocation movement)により,強光に曝された葉緑体は光を避けて光 と平行な細胞壁面に逃避する.葉緑体光定位運動の分子メ カニズムはシロイヌナズナを用いて詳しく研究されている (Kong and Wada 2016).また鞭毛により遊泳できる単細胞 藻類は,強い光から逃避する負の光走性を示すグループが ヘマトコッカス藻の強光回避戦略
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Ota, S., & Kawano, S. (2019). Avoidance strategy of high light in Haematococcus. PLANT MORPHOLOGY, 31(1), 19–23. https://doi.org/10.5685/plmorphol.31.19
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