サード・プレイスとしての立ち飲み屋に関する研究

Abstract

サード・プレイスとしての立ち飲み屋に関する研究 大阪大学大学院工学研究科 木村 毅 大阪大学大学院工学研究科 松本 邦彦 大阪大学大学院工学研究科 澤木 昌典 1 はじめに 都市には都市居住者にとって生活上欠かせない「二つの 居場所」、 ファースト・プレイスである家、セカンド・プレ イスである職場や学校に加え、居心地のよい三番目の居場 所「サード･プレイス」が必要であると言われている 1) 。こ の 「サード･プレイス」 の在り方が都市の魅力を大きく左右 すると考えられる。 西欧においてはカフェやパブがサード・プレイスの代表 事例として挙げられ、住民の多くがカフェやパブを「憩い と交流の場」 として毎日のように利用している 2) 。 しかし、 日本においては、住宅と職場環境の整備はされてきたが、 都市の魅力を高めるサード・プレイスの整備は依然として 未熟である 2) 。そのため、心の豊かさをもたらすことがで き、他者との交流が存在するサード・プレイスに対するニ ーズが存在すると考えられる。 マイク・モラスキーは、日本におけるサード・プレイス の代表例として、 「赤提灯や大衆酒場のような庶民的な居酒 屋」が挙げられると述べており、さらにそこではカウンタ ーが一種の共有空間となり、店主や周囲の客の会話が共有 され、とくに常連同士なら自然と他者の会話に加わること が見られると述べている 1) 。 本研究では、庶民的な居酒屋の中でも立ち飲み屋 (1) に焦 点を当てる。立ち飲み屋は、値段の安さから、気軽に立ち 寄りやすい場所であると考えられる。また、カウンター越 しによる店員と客との会話や、客同士の立つ場所の近さが あるため、交流が生まれやすく、サード・プレイスとなり うると考えられる。 こうしたサード・プレイスに関する既往研究には、セカ ンド・プレイスである職場周辺で構築されるサード・プレ イスの実態を明らかにした林田らの研究 3) 、大学生を対象 としてまちなかで構築されるサード・プレイスの実態を明 らかにした十左近らの研究 4) などサード・プレイスの構築 に関する研究が存在する。また、主婦によるカフェの利用 実態からサード・プレイスを考察した江藤らの研究 5) 、カ フェ利用者の行動観察調査からサード・プレイスの分析を 行った畠山らの研究 6) など特定の場所の利用実態からサー ド・プレイスを考察する研究が存在している。 しかし、これら既往研究の多くがサード・プレイスとし て対象としている場所はカフェであり、立ち飲み屋を対象 とした研究はみられない。そこで、立ち飲み屋における利 用実態を把握することで、わが国におけるサード・プレイ スに関する新たな知見が得られると考えられる。 そこで本研究では、立ち飲み屋の空間的状況から、立ち 飲み屋の利用実態および立ち飲み屋における交流を明らか にし、立ち飲み屋のサード・プレイスとしての特徴を考察 することを目的とする。 2 研究の方法 本研究では、調査協力の得ることができた大阪府吹田市 朝日町の大型商業施設の地下1 階に位置する立ち飲み屋M を対象とし、2014 年 1 月 15 日から 31 日の営業時間内に、 客に対するアンケート調査を実施した。調査票は、来店し た客に手渡しで配布し、 その場で記入してもらい回収した。 配布数 134 のうち回収数は 130 で、回収率は 96.3%であっ た。 アンケート調査の質問項目は 「立ち飲み屋における交流」 、 「お気に入りの場所 (2) の存在」 、 「立ち飲み屋の居心地」 、 「来 店理由」 、 「来店頻度」 、 「属性」とした。 3 調査対象の立ち飲み屋 本研究で調査対象とした立ち飲み屋は、JR 吹田駅から徒 歩 2 分の立地にあり、利便性が高い場所に位置する。JR 吹 田駅周辺は、 JR 大阪駅まで 9分でアクセスできることから、 大阪へ通勤するサラリーマンが多く居住する郊外型中心市 街地である。また、アサヒビールのビール工場や企業の事 業所等も存在することから、駅周辺で働く人も多い。さら に、大型商業施設および商店街が存在し、ファミリー層か ら高齢者層まで幅広い人に利用されている。立ち飲み屋 M は、平成 18 年 4 月に開業し、広さは 36.7m 2 で、長方形の 平面形状（図 1）となっている。また、三方向に扉のない 開口部が設けられているため、客が気軽に出入りができる ようになっている。 営業時間は、 12 時から 22 時まであり、 毎週土曜日が定休日である。また、1 日の平均来店客数は 約 170 人である。 図 1 立ち飲み屋Ｍの平面図 ※点線部は、店と施設内通路がのれんにより区切られている。 また斜線部は、商業施設内の通路部である。