Abstract
1.はじめに 1-1. 背景と問題意識 近年,我が国のまちづくりにおいては多様な回遊行動が 生み出すまちの賑わいを重視し,ウォーカブルな都市空間 づくりを進める自治体も増えている.この背景には,行動 観測技術の向上により歩行者スケールの位置情報観測が可 能になったことやそれに伴う歩行者行動のモデル化の目覚 ましい発展がある.都市計画の文脈でもエビデンスが重要 視される状況下で,都市空間改変がもたらす歩行者行動へ の影響を評価することへの関心が急激に高まっている. 本研究で対象とする渋谷駅周辺では, 2000 年代初頭から 再開発事業に伴う大規模かつ急速な都市空間改変が進行し ている.それと並行して,スマートフォンの急速な普及に 伴う経路検索の一般化や,COVID-19 の流行に伴う混雑を リスクと見なす新たな認知構造の出現,リモート化による まちの訪問者数自体の減少など,行動規範自体が根本から 変化する出来事が様々に起きており,空間改変と行動変容 の因果構造は複雑化している.現状何らかの空間改変計画 に対する事後評価を行う場合,2 時点の行動データから推 定されるモデルを単純比較するのが一般的であるが,この 手法では単に計画と行動の相関関係を示すに過ぎない.計 画段階から竣工までに長期間を要する都市計画とその事業 化において,工事期間中に生じる普遍的規範の変容を考慮 し,因果効果をより正確に識別する手法が必要と考える. 1-2. 既往研究 因果推論的手法は近年の実証分析において重要な理論と なっており,免疫学をはじめとする様々な分野で実験室的 な実験を通した仮説検証において用いられる.しかしなが ら都市的政策の因果効果を評価する場合,実験的アプロー チを取ることは多くの場合困難といって良い. 観測データを用いた因果推論の手法はかねてより議論さ れてきた. Paul(1986) 1) は, ある事象と観測結果の間の因果 関係を推論したい場合に「同一主体は処置の有無に関して いずれか一方の結果しか観測できない」という因果推論の 根本問題に基づく,推定バイアスの存在を指摘した.この バイアスの緩和手法として,計量経済学分野で発展した Heckman(2005) 2) の構造推定モデル,統計学的観点からは Athey・ Imbens(2017) 3) の準実験的なアプローチや Pearl(1995) 4) の因果ダイヤグラム・アプローチなどが存在する.中で も Rubin(1974) 5) による反実仮想モデルは疫学分野をはじ めとする幅広い研究分野に用いられてきた. また今日の経済理論は異時点間の最適化問題にその関心 を移しており 6) ,パネルデータを用いた時間変化に対して 因果分析が盛んに行われている.織田澤・大平(2019) 6) はイ ンフラ整備の効果に関して実務上一般的に行われている前 後比較による方法の限界を指摘しており,パネルデータを 用いた DID(Difference in Differences)推定が観察研究におい て有用である 6) と述べている.国内外ともに,因果推論的 手法を実際の都市的政策の評価に用いている事例は極めて 限られる 7) が,近年では空間的波及効果に着目して DID 推 定を土地利用に対して応用したものも見られる.Dubé ら (2014) 8) は公共交通機関と沿線の住宅価格の変化について ヘドニック価格方程式のSAR 仕様に基づいたSDID(Spatial Difference in Differences)推定量を開発し,モントリオールの 郊外通勤電車の導入に対して実証分析を行った. Bardaka ら (2019) 7) は交通システム建設に際する他の介入要素の多さ や時間をかけたネットワークの拡大に伴うスピルオーバー の可能性を背景に, 交通分野と DID 推定の親和性を明らか にしている. 歩行者行動のモデル化という観点からは,位置情報の観 位置データを用いた渋谷の都市更新に伴う歩行者行動の変容分析 With the growing interest in the impact of urban design on pedestrian behavior, the epidemic of COVID-19 is considered to have brought about some transformation in the fundamental norms of pedestrian behavior. As the causal structure between spatial transformation and behavioral change becomes increasingly complex, conventional evaluation methods that only present correlations are no longer adequate. In this study, we introduced a causal inferential approach to spatial behavior analysis by devising a sampling method for route data, and found that the redevelopment of Shibuya, which is undergoing a large-scale urban space transformation, has caused a drastic decrease in opportunities of migratory behavior, a decline in time consumption, and a loss of spatio-temporal activity patterns.
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Masuhashi, K., & Hato, E. (2023). Analysis of Changes in Pedestrian Behavior due to Urban Renewal in Shibuya Using Location Data. Journal of the City Planning Institute of Japan, 58(3), 1140–1147. https://doi.org/10.11361/journalcpij.58.1140
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