Abstract
1.はじめに 洪水及びその原因となる豪雨対策の主軸は河川構造物や下水道 等のインフラを充実させることにあるが,河川や下水道に流入す る雨水の量自体を抑制する取り組みも重要である。近年の欧米諸 国では,こうした観点からのグリーンインフラ(以下,GI)の導 入が増えている。 GI とは未だ発展中の概念であり地域によって微 妙に定義が異なるが,概ね植生・土壌等による自然のプロセスを 通じて,様々な生態系サービスを人々に提供する土地・施設を総 称する概念である点は共通している 1) 。洪水調整は GI が提供す る生態系サービスの一つであり, GI が発揮する雨水流出抑制の機 能によっている。こうした機能は必ずしも GI に固有のものでは ないが,生物や生態系の働きによってその機能を発現するという 点が他のインフラにはない特徴といえる。また,他のインフラと 比べて多機能であること,設置・管理の費用を抑えられるがゆえ に持続可能性が期待できることも GI の特徴といえる。多雨で水 害も激甚な日本では,高効率な土木インフラの重要性は論を待た ないが,上述した GI の特性に鑑み,多様な取り組みの可能性が 検討されてよいだろう。 本研究はこのような視点に立ち,英国イングランドにおいて洪 水リスクの緩和を主な目的の一つとして実施された GI 関連の公 共事業に着目し,事業の位置づけや実施の方法,導入された GI の実態等について把握するとともに,日本での導入促進にあたり 示唆する点について予備的に考察することを目的とした。英国で は GI の戦略や計画については多くの自治体で策定されるように なっている。実施例はまだそれほど多くはないが,初動期の導入 実態を把握するには適当な対象と考えられる。 洪水リスクの緩和に資する GI については,米国における取り 組みがつとに有名で,ポートランドの実施例が検証されているが 2) ,洪水対策を強化しつつある英国を対象とした研究はみられな い。また,街路や建築物への GI 導入に関する研究は散見される が 3) ,河川や公園を含む公共部門一般での GI 導入についてのま とまった検証は行われていない。 事例選定の考え方については,英国におけるエコロジカルな視 点を重視した GI 導入の手法や実態に詳しいシェフィールド大学 ランドスケープ学科の James Hitchmough 教授の意見を参考に した。氏によれば,英国において GI の概念が意図されるように なるのは 1985 年頃である。一方,生態系サービスの概念が空間 計画やランドスケープの分野で意識され始めるのは 2000 年以降 である 4) 。よって,緑地や GI の計画・事業において生態系サー ビスの提供が主題となるのはまだまだ一部の事例に限られている。 これをふまえ,研究対象とする事例はイングランドにおいて 2000 年以降に実施された GI 関連の公共事業 (街路・河川・公園) とした。その際,洪水調整を目的に含む GI の広域的な戦略を持 ちかつ GI の実施例も豊富な地域として大ロンドンの特別区を, GI の広域戦略は持たないものの洪水調整のためのGI の実施例が ある地域としてシェフィールド市に着目した。各地域での事例選 定においては, GI の導入に際し植生や土壌等の要素が重視され生 態学的な視点からの配慮がみられること,当該事業に関する情報 や資料が十分に得られること,現地踏査が可能であること,ある 程度の規模の事業であることを条件とし, 小さなレインガーデン, 局所的な草本湿地(swale)のみの整備は対象外とした。その結 果,表−1 に示す 6 件の事例を選定した。なお,本研究で扱う GI は, 上述した, 植生・土壌等による自然のプロセスを通じて, 様々 な生態系サービスを人々に提供する土地・施設とし,事業の中で GI という言葉が使われていなくても,本定義に該当する場合は GI とみなした。 各事例に関する情報 ・ 資料等の収集はインターネットによった。 具体的には,各事例の設計図書・仕様書等 5)10)11)12)13) ,専門的な機 関が公表する調査結果 20) や事例検証 17) ,行政資料 7)9) 及び設計者 らが作成した報告書 14)16) 等を用いた。これらの資料で各事例の実 施概要・設計概要を理解した上で現地踏査 21) を行い,GI の導入 実態を確認した。以上の調査結果の概要をまとめたものが表であ る。 Abstract: The purpose of this study is to clarify the background and objective of green infrastructure implementation, opportunities and method of green infrastructure installation, implementation system of green infrastructure, funding, and policy context of green infrastructure implementation in selected green infrastructure-related projects that were carried out for the main purpose of adapting climate change, particularly alleviating a flood risk by using ecosystem service in England. And through above study, we preliminarily discussed the things that contribute to green infrastructure introduction into Japan. In particular, we understood the actual conditions of green infrastructure implementation through bibliographic survey and fieldwork on distinguishing examples of green infrastructure installation into each three types of the site (road, river and public park) that were selected by taking specialist's opinion and the information from authoritative sources into consideration.
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KINOSHITA, T., & YE, K. (2017). Examples and the Characteristics of Green Infrastructure Implementation to Alleviate Flood Risk in England. Journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture, 80(5), 695–700. https://doi.org/10.5632/jila.80.695
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