Abstract
1. それは 2001 年 3 月のある晴れた日のことであった. Cornell 大学における Lekkerkerker 教授の集中講義で次 のような美しいアイディアに出会った. 『高分子溶液 中の 2 つの巨大分子間には,たとえそれらが直接引き 合っていなくとも実効引力が働くことがある.定積過 程で考えるならば,それらの巨大分子間に働く(実 効)引力はエントロピー変化により駆動される. 1 に示されるように,巨大分子が互いに近づき会合する ことで高分子の配置空間が増加し,配置のエントロ ピーも増える.これが駆動力となる. 』 『エントロピーの増加とは乱雑さの増加である』と 生半可な理解をしていた筆者が,上記の考え方を了解 したときの衝撃はいまだに忘れられない.その上,そ れが約 50 年も前に 2 人の日本人(しかも,生物物理 の著名人ら)によって提案された相互作用であるこ と 1) に加え,生物科学,たとえば細胞質の混み合い問 題 2) から,界面科学 3) ,相転移と臨界現象 3) にまで広 がる研究テーマたちの出発点の 1 つであることまで 知ったときには自らの迂闊さにあきれた. この小論の主題は上述のエントロピー力(枯渇相互 作用)に関する Asakura-Oosawa 理論(AO 理論)の紹 介である 1) .まず,その本質は高校レベルの知識で十 分実感できることを示したい 4) .次に,大学初年度程 度の化学熱力学の言葉で論じ直す.さらに,おもに物 理や化学を専攻する学生のためにカノニカルアンサン ブルで導出を行い統計力学の言葉で読み直す.最後に ヴァリエーションを 1 つ紹介したい. 2. AO 2.1 [Step 0] 2a のような底をふさいだ注射器のピスト ンを引っ張るには力がいる.そして 2b の状態で力 を抜けば 2a の状態に戻る.このとき,ピストンと シリンダー(の底面)のみに注目すれば,それらの間 には実効的に引力が働いていると看做せる.この現象 は, 『ピストンを引くことでできた真空領域と外側の 非真空領域の圧力差が原因であり,その真空領域を減 らすようにピストンが動いた』とも説明できる.実 は,これら 2 種類の領域があると看做すことが AO 理 論の核心部である.この後の Step 2 では, 『一見する と均一に思える領域内に 2 種類の領域を見いだすセン ス』に注目してほしい.そのようなモデル化は 2 相近 似とよばれる. (この 2 相近似のアイディアは,高分 子電解質の理論などでも重要である. ) さて,高校基礎レベルの問題を 1 つ出題する.
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AKIYAMA, R. (2011). The Young Person’s Guide to the Asakura-Oosawa Theory. Seibutsu Butsuri, 51(1), 036–040. https://doi.org/10.2142/biophys.51.036
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