Abstract
1. X 線小角散乱(SAXS)法は,試料に X 線を照射し, 散乱 X 線強度の角度分布から構造情報を得る方法で ある 1)-3) .対象が溶液であることを除き,結晶解析と 同様の散乱現象に基づくが,溶液中の分子の構造情報 が時間的空間的に平均化されるため,これまでは分子 の大きさや大まかな形状を調べたり,グローバルな構 造変化を解析するのに用いられてきた.他の構造解析 法と比して分解能が低く,情報量も少ないため,粗い 構造が得られることになる.近年は,光源や検出器の 改良により広角領域まで測定可能になり,より高い分 解能のデータが得られるようになりつつある 4) . タンパク質溶液に X 線を照射すると,タンパク質 は水よりも平均電子密度が高いので,より強く散乱 する.このとき,粒子の形状や大きさに応じて,散乱 強度は一定の角度依存性を示し, 1a のような特徴 的な散乱パターンを示す(横軸は散乱角ではなく, 4 sin h q l = で 表 さ れ る.2q が 散 乱 角,l が X 線 の 波長に相当する) .一般的に小角領域のデータから分 子全体の大きさや形状に関する情報が,広角領域の データから分子の内部構造や局所的形状に関する情報 が得られる. 2. SAXS_MD 上述の通り,溶液散乱においては,等方的に平均化 された 1 次元のデータとなるため,得られる立体構造 情報は,他の解析法と比較して相対的に少ないが, SAXS 法のメリットは,一旦立体構造のモデルが与えら れれば,対応する散乱データを,散乱理論に基づいて 正確に計算できる点にある.たとえば,pH による立 体構造の変化や,溶液中と結晶中における構造上の差 異を明らかにしたいとき,SAXS 法は威力を発揮する. 1a 5) の実線は pH 5.5 の溶液中で実測した RNase T1 の SAXS データ,点線は pH 4.5 における結晶構造 から予測した散乱曲線である.このとき,両者の散乱 曲線のずれを束縛条件として,これを解消する方向に モデル構造を修正すれば,実測条件を満たす立体構造 を求めることができる.具体的には,I obs (h) を実測の 散乱強度,I calc (h) をモデルから計算した散乱強度と し,両者のずれ [ ] 2 1 () () const obs calc h A E I h kI h N =-å を束縛条件とする(N A と k は規格化とスケーリング のための因子) .これを仮想的なエネルギーとみなし, 通常のエネルギーに加えて分子動力学(MD)計算を 行うと,各原子には本来の力以外に,E const から定まる 「束縛力」が働くことになる.MD の過程において,各 原子がこれらの力を受けて動くことにより,最終的に 実測データを満たす立体構造が得られることになる. 上記アルゴリズムを実装したのが,筆者らの開発し た SAXS_MD プログラム 5) であり,Web サイト(http:// www.ls.toyaku.ac.jp/˜bioinfo/saxs) で公開している. 1b に本プログラムによる構造最適化の例を示したが,最 適化の過程で,モデルから計算した散乱パターンが 徐々に実測データに近付いていくのがわかる.最終的 には,2 次構造はほとんど変化せずにループ部分が動 いて,分子全体がやや膨らんだ構造が得られたが 5) , これは結晶中の packing から解放されたこと,また pH 変化により酸性タンパク質である RNase T1 分子内 に負電荷同士の静電反発が増大したことを反映してい ると考えられる. なお立体構造から SAXS パターンを計算する際に, タンパク質分子の周囲の水和層の存在を考慮するた め,本プログラムでは,dimensionless scale,すなわち 横軸を h でなく R g h(R g は分子の慣性半径)とした散 乱プロットによる束縛をかけるオプションが用意され ている.Dimensionless scale においては,分子の形状が
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MORIMOTO, Y., NAKAGAWA, T., & KOJIMA, M. (2011). Computational Analyses of Protein Structures by Solution X-ray Scattering. Seibutsu Butsuri, 51(2), 088–091. https://doi.org/10.2142/biophys.51.088
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