Abstract
1 .ポリマーブラシ 濡れ,接着,摩擦など表面特性を改質する手法の一つとし て,古くから材料表面に高分子を化学的または物理的に固定 化する表面グラフト法が知られている。 「グラフト」とは接 ぎ木を意味し,下地の材質とは異なる性質の高分子鎖を表面 に接ぎ木することで,下地の材質はそのままにして表面特性 だけを接ぎ木した高分子鎖の性質が反映されるよう改質する 方法である。このような表面グラフト高分子を得るには,材 料と相互作用する官能基を結合した末端官能基化ポリマーや ブロック共重合体を表面に吸着させる grafting-to 法と,あら かじめ表面に重合開始剤を導入し,これを基点としてモノ マーを重合させることでポリマーを生長させる grafting-from 法 (表面開始重合) がある。前者の場合,ランダムコイル状の 大きな分子量の高分子が表面を被覆しながら吸着するため, 隣接する高分子鎖同士は接近できず,単位面積当たりのグラ フト本数 (グラフト密度) は少なくなる。一方,後者の場合は 比較的分子サイズの小さなモノマーが連鎖的に反応していく ため,グラフト密度は比較的高くなる。さらに,表面開始重 合に制御ラジカル重合やリビングアニオン重合など開始剤効 率が高く分子量分布の狭いポリマーが得られる重合法を組み 合わせると,極めて均一で非常にグラフト密度の高い表面グ ラフトポリマーが得られる。この場合,立体的に混み合うた め高分子鎖が面内方向に拡がることはできず,表面から垂直 方向へ比較的伸びた分子鎖形態をとるようになる。これが, あたかも歯ブラシやヘアブラシのような構造を想起させるた め, 「ポリマーブラシ」と呼ばれている , 。ポリマーの分 子量とともにポリマーブラシの膜厚は増大し,現在では数百 nm から 1 μm 程度の膜厚を有するポリマーブラシ薄膜が得 られている。 高密度にグラフトしたポリマーブラシの表面は単にポリ マーの化学的性質を反映するだけではなく,スピンコートや as-cast 法により調製した高分子薄膜とは異なる物性を示す。 例えば,このポリマーブラシを良溶媒中に浸漬するとブラシ 層内は高分子濃厚溶液と同じ状態になる高い浸透圧が発生す る。個々の高分子鎖は膨潤するが高密度に表面に固定化され ているがゆえに 3 次元に等方的に広がることができず,基板 平面に対して垂直方向に伸長した分子形態をとる。このため, 垂直荷重に対して反発力を生じポリマーブラシは良溶媒中で 優れた潤滑特性を示す , 。また,この膨潤構造は生体分子 などの吸着抑制にも大きく寄与している。膨潤膜厚は,高分 子鎖と溶媒との混合エントロピーによる利得とブラシ鎖の伸 張によるエントロピー損失とが釣り合うところで決定される。 ただし後述するように,ブラシ鎖が高分子電解質の場合は, イオン強度,静電相互作用などの要因も加わるため理論的に 膨潤膜厚を求めることは容易ではない。 2 .表面開始重合によるポリマーブラシの調製 上述したような理由により高グラフト密度のポリマーブラ シを調製するために表面開始重合法が広く用いられている。 表面開始剤を基点としてカチオン重合やアニオン重合による リビング重合や,原子移動ラジカル重合 (ATRP) ,可逆的付 加連鎖移動ラジカル重合 (RAFT) ,ニトロキシラジカル重合, イニファーター重合など制御ラジカル重合を行い,多種多様 なポリマーブラシが得られている。本解説で紹介する水中撥 油性を示す高分子電解質ブラシは ATRP をはじめとする制御 ラジカル重合で調製されていることが多い。イオン重合に比 べラジカル重合ではイオン性官能基が重合反応の障害になら ないためである。図 1 に表面開始 ATRP 法の概略を示した。 基板表面に臭化アルキルシラン化合物を化学的に吸着させ, 重合開始種を固定化する。この基板をメタクリル酸エステル などのモノマー溶液に浸し,臭化銅などの触媒を適切な条件 で作用させると C-Br 結合の解裂によりラジカルが生じてモ ノマーが連鎖的に重合しポリマーブラシが生成する。 表面開始重合では分子量の制御のため,表面に固定化され ていないフリー開始剤を共存させることが多い。例えば, ATRP によって生成するポリマーの重合度はモノマー (M) と 開始剤 (I) のモル濃度比[M]/[I]に比例するが,表面に固 定化されている開始剤量だけでは[I]が極めて小さくなっ てしまうため,フリー開始剤を加え目的の分子量のポリマー ポリマーブラシによる水中超はつ油性表面の創製 小 林 元 康 a a (2665-1, Nakano-machi, Hachioji, Tokyo 192-0015)
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KOBAYASHI, M. (2016). Design for Excellent Oil-repellent Surface in Aqueous Media by Polymer Brushes. Journal of the Surface Finishing Society of Japan, 67(9), 473–476. https://doi.org/10.4139/sfj.67.473
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